第17話 敵の襲来は突然に?

「朝比奈、今日生徒会来れるか?」

「はっ、はい! いいい行けます!」


 ペコっと頭を下げてビューッとその場から逃げる。

 神楽さんは驚きながらわたしを見て、頭に?マークを浮かべている。


 さっきは廊下で鉢合わせしそうになってダッシュで別方向に逃げてきた。

 まぁ、同じ教室だから……絶対会うんだけど……。

 というか席隣だし……。


 わたしがこんなにも神楽さんを避けているのには理由がある。

 というのも、前、林さんと三井さんに呼び出された時のこと。


 あの後、わたしは予鈴が鳴るまであそこに座っていたんだけど、横の階段から人が降りてくるのが見えて。

 あわてて立ち上がって見たら、その人はまさかの神楽さん。


 その時は無言でスルーされたけど、その時からずっと「もしかしたら聞かれていた疑惑」が出ていてすっごく申し訳なくて合わせる顔もないって言うこと……。


 絶対聞こえてたよね……。


 もちろん、あの時のためのとっさの嘘。

 嫌いなんてことないし、苦手でもない。


 むしろ、すごく安心感があって落ち着くな、と思ってるし……。


 とにかく、あんなことを言っちゃったあとだから、神楽さんと目が合わせられない……。


 誤解は解いた方がいいと思うけど、そのことを持ち出すのもかなり勇気がいるよね……。


 うううっ、無理~っ!


 結局今日も、お昼ご飯は教室で食べるわけにはいかず、食堂に行ったのだった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 そして、今日の生徒会の時間。

 神楽さんは職員室で先生と話し合いがあるそうで今はいない。


 生徒会室にいるのは、葉桐さんと晴真くんと……。


「乃彩ちゃん、明日デートしない?」

「!?!?」


 朔人さん。


 突然ポンっと肩を叩かれた挙句、サラッと驚くセリフを言ってくるものだっから、いつもびっくりしっぱなしだ。


「朔人さん、今は生徒会の時間ですよ? そんな冗談――」

「冗談? オレ本気だけど」

「ひえっ……」


 いつもいつも朔人さんのペース……!

 それに乗っちゃいけないことは分かってるけど、何か言ったら絶対言いくるめられる……!


「乃彩ちゃん、これ食べたいって言ってたじゃん? 明日ちょうど時間空いてるし、期間限定のスイーツがあるとか……」


 そう言って差し出されたスマホの画面には、わたしが1週間くらい前からずっと気になってた、とあるカフェのイチゴスイーツフェスの画像……!

 

 ごくり。


 これ、すっごくおいしそうで絶対食べたかったんだよね……!

 でも時間もなさそうだし、あきらめてたけど……。


「お、おいしそうっ……!」

「アハハ、乃彩ちゃんかわいい。ほら、行く? 食べたかったんでしょ?」

「うううっ……」

 

 思わずうなずきそうになってしまう……っ。


「乃彩ちゃん、我慢しなくていいんだよ~? ほら、行こ」

「うううっ、どうしよう……」


 こんな会話が10分続き。

 結局、明日、土曜日。ちょうどおやつの時間、3時。

 朔人さんと一緒に行くことになったのでした……。


 うう、デ、デートってことは聞かなかったことに、しようっ……。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


「ホントに来てくれた! 来てくれてなかったら泣いてたかも……」

「あ、当たり前です! せっかく食べれる機会なんですし……」


 そう言って入ったカフェ。

 さっそくイチゴフェスの特大パフェを注文。


 朔人さんはイチゴのスコーンをチョイス。

 それも気になってたんだよね……!

 

 注文時間もなんだかんだ言って盛り上がっていた。

 だけど。


 気になるっ!

 すっごく気になる!


 何がって、そりゃあ、周りの女子からの目線が……。

 朔人さんは……やっぱりかっこいいし、服装もおしゃれで女子の目を嫌でも惹きつけてしまっている。


「ねえ……あそこにいる人かっこよくない?」

「ねーっ。イケメン~っ」

「あの隣にいる女子誰? 彼女かな?」

「美男美女って感じ……! 文句言えない~」


 美男……美女⁉

 朔人さんはイケメンだけど、わたしちんちくりんだよ?

 朔人さんの印象下がっちゃいそうですっごく不安……!


 と、一人でわたわたしていたら、注文していたパフェが来た。

 すっごく大きい……!


「い、いただきます……!」

「どーぞ」


 おそるおそる、スプーンを突っ込んでアイスの部分とイチゴムースのところをパクリ。


「おっ、おいしいっ! 朔人さん! すっごくおいしいです!」

「アハハ、なんか見ててもうれしい。……うん、確かにスコーンうまい」

「ですよね⁉ いくらでも食べれます……! 毎日これでも生きていけますね!」

「それには同感できない……さすがに胸やけしそー」


 朔人さんはそう言ってるけど……。

 冗談じゃなく、毎日食べれる気がする……!

 けっこうおもいかなぁ、って思ったけど、全然そんなことない!

 イチゴの酸味がきいたアイスに、トロトロのイチゴソース。

 ふわふわのスポンジと、甘いイチゴムース。

 上に載っているイチゴに、少し甘いホイップ。


 最高~っ!

 幸せな気持ちでわたしはパチンッと両手を合わせる。


「ごちそうさまでした~っ! おいしかったです!」

「それならよかった~。あ、乃彩ちゃんクリームついてる」

「あっ……!」


 あわてて紙ナプキンを取ろうとして手をのばす――けど。

 その前に、朔人さんが立ちあがって、わたしの方に手をのばしてきた……⁉


「はい、おっけ~」

「さ、朔人さんっ……⁉」


 朔人さんがわたしの頬についていたクリームを取って、それをぺろりとなめてしまう。

それから何もなかったかのように「会計してくるね」と言って席を立った朔人さんに、わたしはその場で固まった。


 な、慣れてる~っ!


 今起きたことがもう一度頭の中で再生されて、ボンッと顔が赤く染まる。


 そして結局わたしのぶんまでお金を払ってくれて、ぺこぺこと頭を下げながら帰宅したのだった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


「今日はありがとうございました~っ!」

「こちらこそ。またどっか遊びに行こ―ね~。じゃ」


 朔人さんは少し用があるとかで、校門の前でお別れする。

 楽しかったなぁ……。


 また期間中に食べに行こうっ……!

 また玲音ちゃんと一緒に行きたいなぁ……。

 イチゴのシェイク飲んでみたいし……!


 と、突然目の前が真っ暗になって、知らない人の手がわたしの腕を後ろで拘束した。


「な、何っ!!??」


 強くつかまれた腕を振りほどこうとして、いきおいよく腕を振るけど掴む力がすごく強い。


 こんな事今までの経験上なくて、目を隠されているから状況も分からない。


「これで――に――――で、――」

「じゃあ―――してもいい?」


 知らない人たちの会話。


 ううん、知ってる。聞き覚えがある、この女子の声。


 分かりたくなかった。まだ彼女たちとも、笑い合える日が来るかなって希望を残しておきたかった。


「歩け」と言われ、わたしは従うしかないと思い、指定されたように動く。

 ガコンッとどこかに連れていかれて、鍵が閉まった音がした。


「神楽さまたちに近づいた罰よ。せいぜい反省しなさい」


 そう言って、だんだんと遠ざかっていく彼女たちの背中。


 腕の拘束は、少し緩かったみたい。


 腕が自由になって、アイマスクを外す。


 わたしがいたのは、この学校の敷地外と考えられる、古びた小屋。



 わたしを連れてきたのは、林さんと三井さんだ。


 青い空に浮かぶ眩しい太陽が、ただまぶしく照らしていた。

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