Chapter4 忍び寄る黒い影

第16話 遠のいていく幸せ

「お、おはよ~」

「乃彩ちゃん大丈夫……じゃない⁉」

「アハハ、ちょっとね……」


 朝、教室に入ってきていつものように玲音ちゃんが来てくれた、んだけど……。


 実は昨日泣きはらして目の周りは真っ赤。

 ケアとかも良く分からなくって、一応冷やしたんだけど赤みが引いてくれなくて……。


「あんまりこすっちゃだめだよ~。おっ、タイミングがいいところに神楽様だ~っ」


 玲音ちゃん、目がハートマークだよ……。


「……はよ」

「「おっ、おはようございます⁉」」


 今挨拶してきた……っ⁉

 今まで無言だったのに……!


 やっぱり少しは歩み寄ろうとしてるのかなぁ……。

「朝から話せたぁっ」と言ってふにゃりと笑う玲音ちゃんに、わたしは小さく笑う。


 そうして朝の時間は終了となり、HRが始まった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 お昼を食べ終わった教室で。


「……さん! 朝比奈さん!」

「あっ、ごめん! ええと、何か……?」

「これ、職員室に持っていってもらえるかしら? 私たち忙しくって」


 話しかけてきたのは、クラスメイトの林さんと三井さん。

 二人ともお嬢様って感じの子たちで少し……苦手タイプ、というか……。


「朝比奈さんどうせ暇でしょ」と言って笑う彼女たちにわたしはどきりとしながらも

 うなずく。 

 そんな人たちに頼まれたら断れないし、本当に暇なんだからしょうがない……。


「じゃあこれやっといてよね」

「あ、え……」


 どさりとわたしの机の上に置かれた大量の書類。

 たくさんあるし……1回じゃ運びきれないかなぁ……。

 時間的には大丈夫そう。


 職員室まで道もわかるし、オッケーっ。


 まずは一束持っていこう……!


 そうして頭の中で職員室までのルートを描きつつ、廊下に出たのだった。


 10分後。


 やっと終わった~っ。

 ふぅ、と息をついて自分の席で読書開始。

 お昼休みはあと少しだけど、その少しでもいいから読みたい~っ!


 と。


「やっといてくれた? あと、これのチェックも頼める?」

「委員会があってできなかったんだよねぇ……。?」


 林さん、と三井さん……?

 そんな言い方、しなくても……!

 わたしが生徒会メンバーになったことに反対しているような言い方……。


 そこまで考えてハッとする。


「よろしくねー」と言って去っていった二人の背中を、茫然と見つめる。


 そう言うことなんだ。


 あの光を放っているみんなといれば、当然恨まれることだってある。

 それを身をもって知った。


 でも、まだこれは始まりに過ぎなかったんだ……。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 それから数日間、毎日そのチェックや授業が終わった後の片づけなどを任された。

 でも、それ以外にも悪意のこもった意図的な嫌がらせはあったの。

 昨日は……大事に持ってたキーホルダーを池の中に落とされたり。

 今日の朝は、引き出しにたくさんのゴミが入っていたり。


「最近乃彩ちゃん、お昼休みどこ行ってるの?」

「ちょっとね……あっ、ほら、生徒会のお仕事!」

「そう? 忙しかったら私も手伝うよ!」

「ありがとう……!」


 ふう、良かった……。

 玲音ちゃんにだけは気づかれたくない。

 最近他のクラスの子に同じ趣味の子がいたらしくて盛り上がっているから……そこに水を差したくない。


 最初はしかたないと思っていたけど、さすがに辛くなってきた。

 仕事自体は苦じゃなけど、そういう悪意が向けられているのがつらい。


 でも……さすがに言えない。

 心配かけたくないし……言ったところで何もならない。


 今はわたしが耐えればいいだけ。寮に戻ったら、昨日朔人さんが作ってくれたアップルパイがある。

 それ食べて……あっ、確か今日はマンガ発売日……!


 ほら、嫌なことだらけじゃない。

 大丈夫……大丈夫。


 ふーっ、と息をつくと、どんっと机に誰かがぶつかってきた。

 林さんと三井さん……。


「ごめん……っ、あ」

「いったっ。何してくれるのよ。仕事は終わったんでしょうね? 今日中にやっておかないと私達が怒られるのだけど」

「や、やっておいたよ……!」


 さっき頼まれたものは全部持っていった。

 だから大丈夫なはず、だけど……。


「やっぱり気に入らないわ。ちょっとこっちに来て」

「え、ちょっと⁉」


 半ば強引に手を引かれて、わたしはあわてて林さんの背中を追う。


 人気が少なくなったところで、林さんが手をはなしてくれた。


「あんたに聞きたいことがあったの。正直に答えてね」

「そうそう、そうしないともっと仕打ち酷くするよ~っ?」


 きゃはきゃはと笑う彼女たちに、わたしはさっと身構えた。


「そんな固くしなくて大丈夫だよ~」

「単刀直入に聞くけど、あんた、神楽様のことどう思ってるわけ?」

「生徒会メンバーだからって、特別だと思ってないよね? 自分だけに優しいとか思ってないよね?」

「さすがにそれはないっしょ、ちょっとひくかも」


 神楽さんのこと……??

 優しくていい人だなって……思ってるけど……。


 彼女たちの前で、そんなこと言ったら……!

 嘘はつきたくないけどっ……。


「に、苦手です。ちょっと怖いし……」


自分の口から紡いだその言葉に、キリキリと胸が痛んだ。

ごめんなさい……! ごめんなさい……。


「それ、本心ね? 心の中では好きとか言わないでよね」

「苦手なら近づかないでもらっていいかしら。そっちの方があなたにとってもいいでしょうし、神楽様にもいいわ」


「生徒会メンバーだからって自惚れないでね?」と言って去っていく彼女たちを見て、わたしはそのまま廊下にへたり込む。


 このとき、わたしは知らなかった。

 今の会話を聞いていた人がいることに――。

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