第14話 クールな会長の新たな一面

 ピピピピッ。


 体温計の音がして、わたしはその数字を見る。

 36.5……平熱……!


 うーん、と大きく伸びをしてカーテンを開けると眩しい光が……!


「よし、今日は学校行くぞ~っ」


 昨日休んじゃった分の勉強と生徒会のお仕事も今日取り返さないと……!


 そう、実は昨日は38度まで上がっちゃったの。

 朝来てくれた神楽さんには「今日は休め」って言われて、しかたなくお休みしたんだけど……。


 昔から、進級後とか新学期の初めには体調を崩しやすかったから、今回も多分それだよね……。


 朝ごはんは、昨日玲音ちゃんが来て作ってくれた夜ご飯の残りとごはん。

 玲音ちゃんにもしっかりお礼を言っておかないと……!


「行ってきます」


 ガチャリ、とドアを閉めて元気よく飛び出した。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 朝、遅れずに到着したわたしは、隣の席で外を見ている神楽さんに声をかけた。


「神楽さん」

「……なに」


 う……ちょっと機嫌悪そう……。

 鋭い眼光に少しビビりながらも、わたしはガバッと深く頭を下げた。


「あの、風邪ひいたときに看病してくれて……ありがとうございました……っ」

「……」


 何も反応ナシっ?

 さすがに怖くて逃げだしたい、けど……。

 だめっ、耐えろっ、乃彩!


 まだやらないといけないことがあるんだから……!


「神楽さん、何かお礼がしたいんですけど何がい――」

「いらない」

「え、でもわたしの気持ちですし……!」


「見返りを求めたわけじゃない」と言って、また話を打ち切ろうとする。

 神楽さんがそういう人じゃないのは最初から分かってるよ……。


「なんかないんですか? わたしだってしっかりお礼がしたいです……!」


 もう半ば逆切れ状態。

 今まで神楽さんに甘えていた部分もたくさんあったけど、今回は甘えちゃダメ……!

 ぎゅっと目をつぶって反応を待つ。

 すると、小さくため息をついたのが聞こえて、ぼそりと何かをつぶやいた。


「……おまえが作るメシが食べたい」

「え」


 え。

 わたしが作る、ごはん……?


「そんなんでいいんですか……?」

「って言ってるだろ」


 そ、そうならいいんだけど……。

 わたしのごはん?

 あんまり上手じゃないし……。


「どうして……? ほかにもなんか欲しいとか、やってほしいこととか……」

「おまえが持ってきてたメシ、美味そうだった」


 あ、そっか……わたし、玲音ちゃんと食べない日は教室でお弁当食べててたんだよね。

 神楽さんは騒がしいのが嫌とかで、お昼前は人気が少ない教室にいたから……あんまり意識してなかったけど、神楽さんも見てたのか……。

 おいしいのかっていうのはともかく……。


「ハイっ、じゃあ今日の夜ご飯、つくってそちらに持っていきますね!」

「俺の寮で作れ」

「へっ……。で、でもそれじゃあ神楽さんが……」


 そう言いかけて、この前のことを思い出す。


 ――『お前なら大丈夫だ』


 そ、そうだった……。

 この前の言葉を思い出し、一人で真っ赤になりながら神楽さんの言葉を待つ。


「夜18時に俺の家でいいか。……あと、連絡先交換」

「あ、了解です……! 連絡先も教えておきますね!」


連絡先を交換し合い、新しく神楽さんの連絡先が追加された。

その画面を見て、ふふっと笑いがこぼれる。


なんか、距離縮まったなぁ、って感じるんだもん!

嬉しい……っ。


「じゃあ、今日は18時までに買い出ししておきます……!」


 近くにスーパーがあるから、そこでササッと買って……。

 あ、夕飯何にしよう?

 アレルギーとか聞いた方がいいかな……?


「あの、なんか食べたいものとか……アレルギーとかありますか……? あっ、嫌いなものとか……」


 そう言った後で、嫌いなものはないかな、と思いつつも耳を傾ける。


「……オムライス。できればグリーンピースは入れないで」

「……ふふっ」


 オムライス……かわいいっ。

 グリーンピース……苦手なのかな……?


 思わず笑ってしまった……!


 するとそんなわたしを見てむっとした顔をする神楽さん。

 

 少し不満顔で、それも何だかギャップが……!


 オムライスはわたしの得意料理っ!

 絶対おいしいやつを作ろう……!


 今日は生徒会がないから十分スーパーに行く時間もあるし……。

 わたしはせっせとさっそく材料を書き出し始める。


「……楽しみにしてる」

「ふえっ⁉」


さらりと言われたその言葉に、鼓動が速くなっていくのを感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る