第12話 高鳴る鼓動

「キャー! 川澄様―っ!」

「え、まじで⁉ わ、こっち来てるって!」

「1年生の階になんか用なのかな?」

「他のメンバーはいないの?」


 朝からギャーギャーと騒ぎ始める廊下。

 川澄様ってことは……川澄くん……じゃなくって、晴真くん!?


 しかもこっち来てるってことは……。


「みんなおはようー、あのさ、朝比奈さん呼んでもらえるかな?」

「は、はいいっ!!」


 声をかけられた女子は猛ダッシュでわたしのことを呼びに来た。

 目立ちたくないけど……生徒会に入っている時点で目立ってるんだから今更って話だよね。


 クラスの子に呼ばれて廊下に出ると、晴真くんが手を振ってこっちに歩いてきた。


「あ、朝比奈さん! 来てくれてありがとう。あの、今日、本当は生徒会活動がないはずなんだけど……ごめんね、文化祭のことが少し遅れ気味で、少し急がないといけないんだ」

「あ、そうなんだ……! じゃあ、今日生徒会室の方に行くね」

「ありがとう。じゃあ、蒼良にも伝えておくね。じゃあ、それだけ!」


 そうして去っていった晴真くん。


 文化祭の準備が遅れているのかぁ……。

 確か、文化祭があるのは8月の最後の方だった気が……。

 すっごく後の話だと思ってたけど、意外と近いのかも……?


 あ、でも体育祭は6月中って聞いたようなっ⁉


 忙しいけど、そんなこと言ってられないよ……!

 まだまだ覚えないといけないこともたくさんあるけど、頑張ろう……!


 気合を入れていたら、急にフラッと体が傾いて。


 さっきはめまいがしたんだよね……あんまり寝れてないのが原因かなぁ……。


 はーどうしちゃったんだろう……。

 こんな時こそしっかりしないといけないのに……。


 しかも明日からゴールデンウィークだよ?

 玲音ちゃんとどこか遊びに行ったりしてゆっくりしたいなぁ……。


 入学していろいろあったから、あんまりゆっくりできていないし、何かおいしいものとか食べたいなぁ……。


 あ、そうだっ。

 今日、生徒会のお仕事が終わったらわたしか玲音ちゃんの寮で、一緒に夜ご飯食べれないかな?

 後で連絡してみようっ。


 ウキウキとしながら、わたしはまた自分の席へと戻った。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・



「……ちゃん! 乃彩ちゃん! ……ホント大丈夫?」

「……あ、大丈夫です……」


 生徒会活動、終了時刻。

 は、とっくに過ぎたんだけど……。


 仕事中、体がだるくて……あんまり終わってないんだよね……。

 仕事、やらないと……!


 私がまた書類に手をのばそうとすると、近くにいた朔人さんに「だーめ」と言って取り上げられた。


「もう休んでなって言ったでしょ? なんで無理するかなぁ」

「ごめんなさい……」


 上を向いて朔人さんを見ると、ちょっと怒って、る?

 いつもは「じゃあ一緒にやろっか?」って笑ってジョーダンを言ってくるのに……。


 心配かけちゃったのかな……。申し訳ない……っ。

 迷惑かけちゃった……。


「今日は仕事はいーから。さっさと帰るよ。もうオレと蒼良しかいないし」

「え、でも……確か忙しいって聞いていて……」

「それが嘘とは言わないけど、オレたちを誰だと思ってるの? そんなんすぐ片付けるからだいじょ―ぶ」


 そう言ってくれるのはありがたい、けど……っ。

 いつもわたしの分までやってくれている皆さんには申し訳ないよ……。


 すると、そんな会話を聞いていた神楽さんがこっちにやってきた。


「今日は帰ってゆっくり休め」

「え……でもそれじゃあ皆さんに迷惑かけちゃ、」

「そんなことどうだっていい」


 そう言う神楽さんに、わたしは「でも……!」とくらいつく。


「……俺が心配してるから休めって言ったら?」


「え?」

「ちょ、蒼良⁉」


 神楽さんが言った言葉が理解できず、ぼーっとする頭の中で何とか意味を理解する。

 となりにいた朔人さんも、神楽さんがこんなことを言うのは珍しいのか、珍獣でも見るかのような目で見ていた。


 それって……。


 そんなこと言われて、「休みません、最後までやります」って言えないよ……。


 ずるい。


 まだ、神楽さんのことは知らない。だって、出会って2,3週間しか経っていないから。

 でもね、最近彼との距離がどんどん近づいていくように感じてるんだ。


 それがどうしようもなく嬉しく感じちゃうのは、やっぱり熱があるからなのかな……?


 結局、生徒会室の前で待っていてくれた玲音ちゃんに連れられて、わたしの寮まで一緒に歩いていった。

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