Chapter3 その幸せの中で
第11話 時に優しく、甘く
「こ、これから、第1回生徒会議会を始めますっ……お願いしますっ」
「「「「お願いします」」」」
ペラペラと紙をめくりながらわたしは議会の進行を進めていく。
チラリとみんなの方を見ると、朔人さんが小さくオッケーとサインしてくれた。
そう、朝比奈乃彩、議会の進行真っただ中なのです!
昨日、神楽さんから連絡が入って……。
――「朝比奈、明日議会の進行役だ」
――「えっ⁉ それって……」
――「明日が第1回の生徒会議会なんだ。これは司会進行の目安だ。これ通りに進めてくれればいい。ちなみに生徒会の意見は議長が代表して言うことになっている」
――「代表⁉ それは普通会長さんなのでは……?」
――「今年、議長という役付けができたから変わったんだろ」
っていう感じで任されちゃったんだよね……。
司会進行は何となくわかるけど、生徒会意見代表がわたしっておかしいよっ……。
泣きたいのをぐっとこらえて、わたしは早速本題へと向かう。
「今回は、神楽祭実行委員会、売店特別委員会、代議員会の3委員会で、今年の文化祭に出す、売店について会議します……!」
今日はその二つの委員会の委員長さんと、代議員、生徒会メンバーの皆さんが集まっている。
わたしは前もって渡されていたプリントを皆さんにも配り、確認をしていく。
「ええと、4月中旬にやりたい売店のアンケートを取ったところ、『焼きそば』『かき氷』『焼き鳥』などが上位にあがっています。それらをもとにして、各クラス出し物をするのですが、今後の動きなどについて質問等があれば、3分ほど時間を取るのでその後質問をお願いしま――」
「これ、いろいろ雑すぎ。てか、これで通ると思ってんの?」
そう言ってて手を挙げたのは、代議員の3年生の女子生徒。
紙をひらっと投げ捨て、挑戦的なまなざしでこっちを見てきた。
「あのっ、紙は大切に……」
「なによ、こんなのなくたっていいわ」
「ですが……」
怖いよぉ……。
絶対言いくるめられる自信があるもん……!!
「で、こっちはどーなのよ? 『抹茶喫茶』? 何これ、どうやるの?」
「あっ、はい、えっと……それについてはっ……。各クラスやる出し物を決めた時にしっかり決めていくことになるのでまだ詳細は……」
「あっそー。で、仕入れるのは誰がやるの? 学園長さんにはもう話してあるのよね?」
「そ、それは……」
確かにそこまでの詳細は決めていなかった……。
まだ生徒会も結成して少し。学園長さんと話し合う時間があまりとれていなかったのかも……。
許可がとってあるかなんて知らないよ……。
ヒヤリ、と冷たい汗が背中を伝った。
確かにそう言われると、他にもいろいろ考えないといけないことが出てくるな……。
「あとぉ、出し物をやる場所ってだいたい外だよね? 中庭は飲食禁止なんだけどさ、どこでやるのか決めてるの?」
「……それは」
飲食禁止?
そんなの知らない……っ。
神楽学園は大きい中庭の緑が綺麗だとも言われていたから、そこでやってみたかったんだけど……。
じゃあやるとしたらどこ?
昇降口の前は車が止まって、校庭も使えない……。
神楽学園は大きいし、広いスペースもあるって思ってたけど意外に少ない……??
ヤバイ、どうしよう。
今回、委員会ごとの委員長さんも来ているけど、わたしが言っていることがすべて。
委員長さんに話すのを代わったところで、これに反論できる答は出てこない。
黙ってしまったわたしを、みんなが好奇の目でこっちを見てくる。
どうしようどうしよう。
確かに元からある問題はどうしようもないけれど、今解決しないといけない問題はたくさんある。
それをどうかいくぐっていくか……。
しーん、と会議室の中が静まりかえり、ぐっと唇をかんで下を向く。
紙を持つ手が、がくがくと震えた。
ガタッ。
「生徒会長として、発言する。売店の件だが――」
「え……?」
その声にハッとして前を向く。
するとそこには立ち上がってペラペラと話す神楽さんの姿があった。
「学園長にはもう話してある。売店の場所については中庭が使えないから、駐車場とは別のグリーンスペースで行う」
グリーンスペース……??
聞いたことないけど、そんな場所あったっけ?
わたしを含めた1年生の代議員はきょとんとしているけど、先輩たちは知っているみたい。
あの代議員さんも悔しそうに顔をゆがめている。
「グリーンスペースは普段は利用禁止だが、毎年学園祭の時にはそのスペースを使っているらしい。そこを使えば15個くらいの売店はどうにかなるだろ。今後、これについては生徒会の方でしっかりやっていく」
「そ、それができるならいいのよ」
あの厳しい代議員さんが黙ってる……⁉
さすが、生徒会長さん……!
「以上だ。……朝比奈、質問あるか聞いて」
「は、はいっ! ほかに質問や疑問のある方はいますか……??」
手が上がらなかった。
ちらほら、「生徒会メンバーがやるなら頼れる」とか「確かにあのスペースなら何とかなるよね。さすが」とか好意的な意見が聞こえてきて思わず泣きそうになる。
「では、この方向で進めていきたいと思います……! これで第1回生徒会議会を終了します……」
そう締めくくり、議会は終了となった。
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みんなが会議室から出ていった後。
「あの……!」
「なんだ」
「さっきはありがとうございます……! わたし、何にもできなくて……」
深く頭を下げると、神楽さんは「はぁ」と息をついた。
「お前だからできると思って推薦した」
「え、でも結局今日はその期待に応えられなくて」
「そういうことは気にするな。……誰だって最初からうまくはいかない」
そうだけど……!
せっかく頼ってもらったのに何もできなかった自分が情けない……っ。
「ホントに今日は、ごめんなさい……!」
「……だから気にするな。…………困ってたら助けてやるから」
「神楽さん……?」
そうつぶやいた彼は、さっさと部屋から出ていってしまう。
より一層分からなくなる。彼のことが。自分のことが。
目に見えない場所で、それぞれ想いが動き始めた気がした。
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