第10話 彼女の明るさを【楓side】
僕は、いつも何かを選択するとなったときに親に決められてきた。
行く小学校、中学校、塾。
学校行事はほとんど休まされて、家でひたすら勉強をしていた。
そんな僕に、友達なんているはずなかった。
でも、新しい塾のテストで、初めて2位になった。
親からはさんざん怒られたけど、そんなことよりも1位の人が誰なのかという好奇心の方が大きくて。
気になって総合順位を見ると、僕の上にはある名前が書かれていた。
『神楽 蒼良』
それが、蒼良との出会い。
とても友達らしい事はしなかったけど、初めてできた『友達』だった。
あと、中学の時のクラブの時。
当時あまり人気の無かった化学クラブに、たった一人だけメンバーがいた。
と言ってもクラブ活動は盛んにあるわけじゃないし、僕からはあんまり話さないから、一方的に話しかけられるだけだったけど。
お互い知ってるのは名前くらい。
でもクラブ活動が始まった途端、今まで誰も理解できなかった考えを理解してくれた、たった一人のメンバー、『八雲 朔人』。
それが、朔人との出会い。
親に無理やり入らされた、サッカークラブ。
最初はそれこそ運動なんてやってこなかったから、そこから3か月はずっとベンチ。
親からは怒られて、コーチからももっと頑張れって言われて。
チームの仲間の間には、僕と仲良くしたら僕の親に怒られる、みたいな噂が流れていたらしくてまともに話さなかった。
でも、その時唯一、話しかけてくれた、サッカークラブエース『川澄 晴真』
それが、晴真との出会い。
そして、行く高校を選んでいた時だった。
『寮制度あり! 国内トップクラスの名門校、神楽学園へ足を運んでみませんか?』
踊るような文字に、国内トップクラスというまぶしい文字。
周りのみんなは興味なさそうに通り過ぎていくけれど、僕にとっては光って見えた。
塾の帰り道、そんなポスターを見つけて、気が付いたらそのポスターに導かれるようにして学園の入学を決めていた。
そしていいことに生徒会特待生推薦というものをもらった僕は、学費免除と寮制度付きで学園に入ることができたのだ。
親は何も言わなかった。
――何を自ら選択するなんて初めてのことだった。
震える足でついた学園は、想像以上のもので、何度も瞬きしながらやっとここにいるんだと実感できた。
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昔のことなんて、僕の本当のことなんて、誰にも言ってこなかった。
否定されるのが怖かったから。
でも、彼女なら話してもすべてを受け入れてくれる気がして……。
まだ彼女と会って日は浅いけど、今まで見返りを求め近づいてきた人たちとは違う、と感じていた。
どんな顔をされるか怖かったけど、そんなのは無駄な心配で。
『……すごいことだと思います……! ずっと親御さんに決められていたとしても、ずっと戦い続けて苦しんで、それでもここまで来たこと……!』
『だから! ここにいるのはつくられた葉桐さんじゃないです……! 自分の中にある葛藤と戦ってきた葉桐さんです……!』
『もうつくられた、なんて言わないでください……! それと……
彼女は純粋すぎる。そして、優しすぎる。
ありのままを受け入れてくれた彼女。
——違う。朝比奈さん。
「……さん。葉桐さーん」
「あ……ごめんなさい、何でしょうか?」
「わたし、少し様子を見てこようかと……」
「分かりました、たぶん蒼良たちは第2会議室かと」
「ありがとうございます!」
バタバタと忙しなく出ていった朝比奈さん。
ひとりになった静かな空間でひとり、笑いをこぼしたのだった。
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