第8話 変わらない想い
無事に初日が終わり、ほっと息をついて寮のベットにバタンと倒れ込んだ。
そしてフワッと香る花の匂い!
おしゃれだなぁ……。
やっぱりベットの大きさや、窓の装飾とかも全然違う……!
さっきリビングを見たんだけど、そこには一人掛けのおしゃれなイスまであったの……!
チラリと目線を上げて時計を見ると、時刻は22時。
ちょうどさっき寮に荷物を運び終えたんだよね。
荷物が少ないとはいえ、大変……。
最近、疲れがたまってるのかなぁ……。
夜もご飯作る気に慣れないし……。
かといって食堂に行く気にもなくてね……。
そう、夜ご飯の時間、19時から2時間くらいは食堂も開いてるの。
短い時間だけど、結構人も多いみたい。
お昼とはメニューが変わるらしくて、行ってみたいんだけどね……。
ハァーッ、疲れたー……。
なんか食べたいけど……もうこんな時間……。
用意するのも……今からはめんどくさいし……。
気が付いたらもう寝ていて、結局ご飯も食べないまま眠ってしまった。
・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・
ふわぁ……眠い……。
あと、10分くらい……。
「うーん……」
ゆっくり目を開けると、カーテンの隙間からあふれる光がまぶしくてまた目をつぶってしまう。
でもいけない、起きないと……。
心を鬼にして立ち上がり、何とか着替えて準備をする。
朝ごはん……どうしようかなぁ……。
あっ、そうだ、購買で何か買おうかな?
朝は食堂開いてないと思うし……。
がちゃりと寮のドアを開けて、エレベーターのところまで歩く。
ん?
というかわたしの寮の隣って神楽さん……⁉
寮の番号の隣には『神楽』と書かれていた。
昨日も何度かここを通ったけど、忙しすぎて見てなかった……!!
女嫌いかもしれない神楽さんと……⁉
それは相手にも失礼なのでは……?
できるだけ迷惑をかけないようにしないと……!
改めて決意を固め、エレベーターを待っていた時だった。
「え、乃彩ちゃん? どしたの?」
「あ、おはようございます、朔人さん。あれ、聞いてませんでしたか?」
生徒会寮に入ることになったって聞かされてない……⁉
わたしが昨日学園長から話されたことを手短にまとめて話すと、朔人さんはふんふんとうなずきながら聞いてくれた。
「と、いうことはこれから乃彩ちゃんが同じ階の寮で暮らすと?」
「ということになりますね……。これからお願いします……!」
理解が速くて助かるよ……。
さすがと言ったところかな……?
と、その時ちょうどエレベーターが上がってきた。
乗り込もうとエレベーターにはいるとき、ぐらっと体が傾いた。
わ……っ。
倒れる、と思ったその瞬間、後ろから誰かに支えられていた。
「乃彩ちゃん大丈夫?」
耳元で朔人さんの不安そうな声が聞こえて、わたしはびっくりしながら朔人さんから離れる。
「ご、ごめんなさい、えと、ありがとうございます! 大丈夫です」
「本当に大丈夫? なんか不安しかないんだけど」
「ええっ、大丈夫ですよ!」
「そーいうとこが不安なの。ほら、またふらふらしてるし。ご飯は食べたの?」
「そ、それがですねぇ……あはは……」
わたしが苦笑いすると朔人さんははぁ、と軽くため息をついて何かを渡してきた。
「これは……?」
「あーこれ、オレ食べないから食べてくんない? 余っちゃったの」
渡されたものを確認すると、小さなタッパーにつめられたおかずと、おむずびが1つ。
これ、朔人さんが作ったのかな?
料理、できるんだ……!
すっごくおいしそうだけど……。
「これ、間食とか、小腹がすいたときとかのやつじゃ……」
「そんなんじゃないからいーよ。あ、美味くなかったらごめん」
「いや、そんなことないと思うんですけど……や、やっぱり受け取れないです! 朔人さんが作ったら朔人さんが食べないと……!」
「いらないの。オレがいいって言ってるんだからさ~おとなしく受け取ってよ」
押し付けてくる朔人さんに、わたしも負けじと押し返す、けど……。
グウウッ。
「はい、乃彩ちゃんの負け―」
「……い、いつからそんな勝負を……」
大音量で鳴ったお腹に、もう隠すことができず私はそれを受け取る。
赤くなる顔を隠すようにして、わたしはバックの中に大切にしまった。
チーン、と音がしてエレベーターが1階につく。
「じゃーね、乃彩ちゃん」
「あ……、これありがとうございます、朔人さん!」
「ご飯はしっかり食べないと健康に悪いからねー」
ひらひらと手を振って昇降口に向かう朔人さんを見て、わたしはもう一度頭を下げた。
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午後4時。一般生徒はみんな下校し、生徒会室の中ではカタカタとパソコンの音だけが響いていた。
「朝比奈さんの席はここでお願いします。さっき説明したとおりですが、何か分からないことがあったらすぐに言ってください」
「は、はいっ!」
わたしが任されたのは書類整理。
葉桐さんは「雑用だけで申し訳ない」って言っていたけど、仕事がもらえるだけでもうれしいから……。
どどーんと積み上げられた書類の束に、印鑑を押して生徒会のサインをして、間違いがないかを確認していく。
ちなみにみんなのお仕事状況は……。
葉桐さんはさっきからずっとパソコンと向き合っていて、朔人さんはポスターの作成。
川澄くんはさっき職員室の方に行った。
で、神楽さんは……。
「蒼良、しっかり仕事してください。朝比奈さんが来たからと言って自分の仕事をさぼらないでください」
「分かってる。さっき先生と話し合ってきたんだ」
うーなんかピリピリっ。
なるべく早く終わらせよう、と意気込んで20分後。
「お、終わりました……!」
「え、もう終わったのっ⁉」
「早っ」
「さすがですね……」
早かったのかな?
でもよかった……遅いって怒られなくて……。
「じゃあ晴真は朝比奈さんにこれをどこに置くか教えてきてください」
「おっけー任せて」
わたしは机の上の書類をまとめて、川澄くんについていく。
さっきまで皆さんがいて賑やかだったけど……かなり、かなり!
気まずい……。
「重くない?」
「あ、大丈夫……!」
本当は少し重いけど……役立たずって思われたくない。
これくらいできないと……。
「朝比奈さん、おれのこともっと頼ってよ。これでも力あるし」
「で、でも……」
「うーん、じゃあ半分持つね」
「っ……! あ、ありがとう……!」
きっと、全部持ったらわたしの気持ちを奪っちゃう。
だからそれをしないで、でもわたしを助けてくれる。
そういうところ……。
「川澄くん……全然変わってないね」
必ずいつも見てくれていて、困っていたら助けてくれる。
なんでだろう、中学校の時と全然変わらないんだ。
こうして話をしていると、時間が戻ったような感覚になるの。
わたしの言葉を聞いた川澄くんが、わたしの方をちらっと見て目を細めた。
「変わってないよって言ったじゃん。……そろそろ諦めようと思ってたのにさ」
シーンとした廊下に川澄くんの声が響く。
「まだ諦められない。ごめんね、こんな執着深い男で」
「ううん……!」
ちがうよ、謝らないで。
でも……ごめんね。
謝らないといけないのはわたしの方なの。
あやふやな気持ちのまま、付き合ったら……きっと二人とも傷つき続ける。
「そんなに想ってくれてわたしは幸せだよ……!」
「そ、っか……」
最善の答えなんてわからないけど、川澄くんの想いだけは否定したくない。
「……じゃあさ、一つだけお願いしてもいい?」
「い、いいよっ……」
「名前で呼んで」
え。
なっ、名前……。
「晴真。はい、せーの?」
「は、晴真くん……?」
「そうそう」と言いながら、彼は切なさと嬉しさが混ざった表情で笑ってくれる。
わたしもつられて笑いながらまた歩き始めた。
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