Chapter2 それぞれが抱える想い

第6話 近づけない距離

 入学式の翌日。


 昨日と同じく食堂でご飯を食べて、のんびり教室で読書タイム。

 ホント、のんびり自由だなぁ……。


 常にA組は女子の黄色い悲鳴がこだましているというか……だからこういう時間は本当に特別……!


 というのも、実は神楽さんが同じクラスなの。

 他の生徒会メンバーの皆さんは違うクラスなんだけど……。


 あ、それと加えて、入学後の一番最初の席替えで隣の席になるということもあったの。


 だから常に騒がしいというか……。


 そんな騒ぎから逃れるために、昨日図書館に行ったら、すっごく大きかったんだよねっ。

 わたしが読みたかったシリーズのやつもあったし、嬉しいっ……!


 しかも、こちらも入学祝いみたいなものをやっていて、なんと5冊貸出っ!

 中学では最高でも3冊までだったから……!


 山積みの本をちらりと見て思わずほおが緩んでしまう。


 よし、お昼休みの時間で残りは読み切れるかな?


 ……。


 ――ピンポンパンポーン。


『えー生徒会からの連絡です。1年A組朝比奈乃彩さん、至急学園長室に来てください。繰り返します――』


「A組? 朝比奈って、入学式の時にも呼ばれてたよな

「もしかしてまた何かやらかしたの―? 問題児?」

「学園長室って、相当なことが起こらないと呼ばれないよね」

「あっ、でも私、なんか生徒会と関係あるって噂で聞いた……!」


 今めっちゃいいシーンなのに……。

 わたしだよね。朝比奈乃彩ってA組に一人しかいないもん……。


 それにしても、至急ってあったけど何の用事だろう?

 それと、問題がもう一つ。


 学園長室って、どこですか……。

 

 わざわざ毎回場所変えなくてもいいじゃん……!

 校内マップとの格闘を想像し、げんなりしながら本の途中にしおりを挟む。


「乃彩ちゃん⁉ なんかやらかしたの⁉」

「何にもしてないと思うんだけど……分からないから、行ってきてみるね」

「じゃあ、頑張ってね……!」


 頑張って、ってもう怒られる確定なの……?

 ううう、気が重い……。


 生徒会関係なのかな……?

 あの後、結局詳しい話は聞かなかったし、その話かな?

 でも、それなら生徒会室に呼ばれるのかな?


 うー考えるだけ無駄だなぁ……。


「朝比奈さん、付き添いましょうか?」

「は、葉桐さんっ!」


 下を向いて歩いていたら、まさかの葉桐さんの登場だ!

 こんなグットタイミングなんて、わたしが方向音痴なの、バレてるっ?

 恥ずかしぃっ!


「お、お願いします……!」


 わたしはぺこぺこと葉桐さんに向かって頭を下げる。

 毎回すみませんっ、本当に……。


「では、学園長室へ。案内します」 

 

そうして優雅なしぐさで案内を始めた葉桐さん。

ペコリと頭を下げて、わたしは入学式の日と同じようについていく。


「ありがとうございます……! 葉桐さんは優しいですね……!」

 

 迷子になってる人を放っておかずに真摯な態度で接してくれるなんて、素敵だなぁ……。


 にこっと笑ってみせたら、隣にいた葉桐さんが黙って表情を硬くさせた。


「葉桐さん……?」

「…………そんなにいい人じゃありませんよ、僕は」

「え?」


 聞こえた言葉に耳を疑う。

 いい人じゃ、ない……?


 「そんなことないです! 最初に会った時もすっごく優しく――」

 「…………ここにいるの、本当の僕じゃないので」


 わたしが放った言葉が、彼を包むバリアに跳ね返される。


 本当じゃ、ない……?

 意味が理解できずに頭が真っ白になる。


 どういうこと?


 いい人なのに。すっごく優しくて真面目な人だって、短期間でもわかるくらいの人なのに。


 なんであなたは自分のことを否定するの……?


 毎回、さりげなくわたしの歩くペースに合わせてくれた葉桐さんが、すたすたと一人で歩いていく。

 その背中に問いかけることができない。

 

 まだ、わたしにはその背中を追いかけて、深く聞ける信頼がない。


 それが、すごく、すごく。


 ――悔しい。


 

どうしたら、あなたの役に立てますか――?








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