第5話 女嫌いの会長さん?
「乃彩ちゃん、今日の入学式、本当にあれ、何だったの⁉ あ、あと、生徒会室でなんの話を⁉」
まって、
あとでちゃんと話するから今はご飯食べようよ~!
ぐいぐい顔を近づけてくる玲音ちゃんをわたしは押し戻しながら奥の方に立っているのぼりを見た。
「ほ、ほらっ、入学セールで全部20パー引きらしいよ?」
「そうなのっ⁉ じゃあ私オムライス~!」
「じゃあわたしはパンでも買ってこようかなぁ……」
玲音ちゃんっていうのは、わたしの友達。
中学校の時からの親友なんだ!
ふー、とりあえず深く聞かれずに済んだ……。
玲音ちゃんが席を立つのを見て、わたしも購買に買いにいく。
たしかー……。ここはアップルパンと、牛乳パンがおいしいって聞いたんだよね。
「あと一つでアップルパンは完売です!」
うっそーーっ!
駆けつけた時にはもうアップルパンの場所には『完売しました』との紙が貼ってあった。おまけに牛乳パンも。
どれだけ人気なの……⁉
残念……。
仕方なく、わたしは隣のカレーパンを手に取る。
ううう、食べてみたかったのに、みんなすごいや……。
「あれ? もしかしてゲットできなかった?」
「うん、そうなんだよね。戦利品はカレーパンかなぁ」
「あっ、でもカレーパンもおいしいらしいよ! 私も食べたい!」
食券をもってこっちに手をのばす玲音ちゃんに、わたしは少しだけちぎってあげる。
わたしも少しかじってみて……。
「「おいしい!」」
カレーのスパイスがいい感じで、たまにピリッとするほどよさ。
パンはもっちもちのフワッフワ!
神楽学園、恐るべし……!
わたしも弁当作ってみようかなぁとか思ったけど、こんなにおいしいパンがあるなら弁当じゃなくてこっちがいいよ……。
「あ、私呼ばれたから取りに行ってくるね!」
「あ、うん」
さっきまで大混雑だったけど、今はみんなテーブルのところで座って食べている。
落ち着けるなぁ、すごいいい場所。
ほ、と息をついた時だった。
「のーあちゃん」
「っ!!???」
ドゴッガタンっ。
うしろからかけられた声に、わたしは椅子の上から落っこちてその声の主を見上げる。
「びっくりしました……っ! 何してくれるんですか、朔人さんっ」
ばちっと目が合ったのは朔人さん。
手には私がゲットできなかったアップルパン!
「し―っ、見つかるからっ」
「え、誰に……?」
フツーじゃなさそうな朔人さんの様子に、わたしは椅子に座りなおしてもう一度彼を見る。
しかし、その答えが返ってくる前にすべて納得した。
「もしかして、ファンの女子たちから、ですか?」
「そーそー。オレ、女の子は好きだけどー食事中まではイヤなんだよね~」
「なるほどです……!」
人気者も困るよね。
ちらちら周りを見てみると、やっぱり「朔人様いた気がするんだけど」「さっき食堂の方に来てた!」「パン買ってた気がする!」という会話が聞こえてきた。
「あの、でもこういうこと誰にでもしない方がいいと思いますけど……」
パーカを深くかぶり、いつの間にかわたしの横に座っていた朔人さん。
距離は近いし、たまに腕が当たるんだけど……。
するとわたしの言葉を聞いた朔人さんは、パチリとわたしにだけに見えるようにウインクした。
「しないよ」
「え?」
「しないよ、って言ったの。乃彩ちゃん特別だし―?」
「⁉ 朔人さ――ふがっ⁉」
「照れてるのもかわいーよ」
にこっと笑いながらわたしの口に手を当ててきた朔人さん。
やっぱり苦手! チャラ男はご遠慮します~っ!
「ののの乃彩ちゃん⁉ なな、なんでここに朔人様が――」
「玲音ちゃん、しーっ。少しだけここにいさせてくれる?」
「っ⁉」
ニコニコしながら玲音ちゃんに向かって口説いてるって……!
ダメだよ、いいなりになっちゃ!
しかし、そんな私の思いもむなしく、コクコクと玲音ちゃんは首を縦に振ったのだった。
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「えええっ! 生徒会に入ることになった!?」
食堂からの帰り道、わたしが生徒会に入ることになったことを伝えると、玲音ちゃんは目を真ん丸にして驚いていた。
「玲音ちゃんっ、静かに!」
わたしは大声で叫ぶ玲音ちゃんの口をあわててふさぐ。
周りの人も何事かとこっちを見るけど、なんとかバレなかったみたい?
セーフ……。
「だから朔人様とかと一緒にいたのかぁ……」
「あれは一緒にいたっていうよりも向こうから来たの。わたしは別に……」
「ってことはさ、神楽様とも話したってコトっ⁉ あ、トップ4の皆さまとも!」
うん、そうなるの……かな?
生徒会室でも話したし……あ、校門でもすこーしだけ話したっけ?
トップ4って、その二人のほかに葉桐さんと、川澄くんだよね。
あいまいにうなずくと、玲音ちゃんは「そっかあ」とずっと繰り返している。
「乃彩ちゃんかわいいもんねっ。仕方ないか……」
「わたしがかわいい? そんなこと絶対ない! 玲音ちゃんの方が何十倍もかわいいよっ」
「出たー無自覚魔人」
わたしのことを見て何か言っているけれど、ごめん、聞こえなかった……。
でも玲音ちゃん、おしゃれのセンスもあって本当にかわいいんだから!
「乃彩ちゃんは誰推しなの?」
「へ……? 推し……?」
「あっ、葉桐様? もしかして川澄くん?」
川澄くんだけは様呼びじゃないんだね。あはは……。
中学校の頃から同じだったしね。わたしも驚いたなぁ。
って、そうじゃなーい!
「えっと、推し?だっけ? わたし、まだよくわからなくって……」
「まぁ、ゆっくりでいいと思うよ! きっと誰が好きなのかもわかってくると思うし?」
「う、うん、そういうものかな? あ、玲音ちゃんは誰なの?」
「もっちろん、神楽様! って言いたいけど、本命は朔人様なの」
「ええっ、朔人さん⁉」
あのチャラ男?
って、友達が好きな人をこんなふうに言うのはよくないよね。
玲音ちゃんは見る目があるし、きっとわたしが知らない素敵なところもあるんだろうなぁ。
「神楽様のことなんだけど、実は少し女嫌いだとか。噂だけどね」
「女嫌い……。そんなふうには見えなかったけど……」
誰にだって苦手なものとかはあるよね。
怒らせちゃったらわたしの評価も下がるし、もしかしたら生徒会メンバーの評価も下がるかも。
神楽さんのためだけじゃなくて、迷惑かけないようにしないと……!
ここに来て、改めて決意を固めることとなった。
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