第4話 生徒会のお誘い

 生徒会室ってどこ……!!


 入試の時に1度校舎の中に入ったことがあるとはいえ、もちろん生徒会室なんて見てないし、こんな広い校舎の中から生徒会室を探すのはほぼ不可能に近いよ……。


 館内図と書かれた地図を凝視するも、そもそも現在地が見つからない。


 も~なんで初日からこんなことに……??


 ――『式が終わったら1年A組、朝比奈乃彩さんは至急生徒会室に集まってください、1年A組の朝比奈ちゃんねー』


 さっきのことを思い出して、思わずため息をつきそうになっちゃう。

 学力面、とか聞こえたし、わたし、そうとう点数悪かったのかなぁ。


 入試の時のテストは返されていないから、点数とかもまだ知らないし。

 合格ですっていう連絡だけで来たもん……。


 ……というか、ないんだけど……。


「あのー、朝比奈さんですよね。もしかしてまた迷子では――」

「は、葉桐さんっ⁉」


 救世主……!

 彼が来てくれたのだから、連れていってくれるはず!


「葉桐さんっ、一生の頼みがあります」

「僕?」

「わたしを、生徒会室に連れていってくださいっ!」

 

 ポカーンとした顔でこっちを見てくる葉桐さんに、わたしもじっと見つめ返す。

 お願い! すっごく困ってるんです……!


 そうしたら、不思議そうに首をかしげた後、首を縦に振ってくれた。


「……? いいですけど……」


「ありがとうございます!」


 わたしがガバッと頭を下げると、葉桐さんがぶつぶつと何か言った。


「この人が……候補……?」

「あっ、今何か言いましたか?」

「いえ、大丈夫です。では、行きますよ」

「はいっ!」


 大きな背中を追いかけて、わたしは早歩きでついていった。


 ・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・


 コンコンッ。


「失礼します、葉桐ですが」

「どーぞー」


 豪華そうなドアに、『生徒会室』と書かれたプレートがかかっていた。

 ドアの奥からやけに明るい声がしてガチャリ、と葉桐さんがドアを開けた。

 先に行くように促されて、わたしは「失礼します」と言って中に入る。


 うわぁぁっ……!


 豪華! きれい!

 シャンデリアもあるし、お城みたいっ……!


「あっ、乃彩ちゃん来てくれたね。楓もお疲れー」


 ソファにいたのは朔人さん。

 テーブルの上にあるお茶を飲みながらこっちを振り返った。


「蒼良さん、朝比奈さんを連れてきました」

「そうか」


 連れてきました、って何かわたし犯人みたいじゃない?

 何にもしてないですよっ。


 じろーっと会長の神楽さんに見られてわたしは下を向く。

 うう、何かしちゃったのかなぁ……。


「朝比奈、顔を上げろ」

「はっ、はいぃっ!」


 ド、ドラマのシーンだよね、これ……。

 絶対怒られ――。


「生徒会に入れ」



「……え?」


 セイトカイニ、ハイレ?

 生徒会に、入れ……。


 シーンと静かな時間が流れて……。


「アハハ、蒼良、言葉足らずすぎ」

「そうですよ、しっかり説明を――」


 周りのみんながフォローしてくれるけど、え、生徒会⁉


「わっ、わたし⁉ あの、人間違えていないでしょうか、わたしは1年A組の朝比奈乃彩で――」

「それなら間違いないな」

「乃彩ちゃん入ってほしーなー」

「入ってもらえば仕事も楽になりますしね」


 皆さん!?

 神楽さんに加え、朔人さんに葉桐さんまでもが加勢している。

 あと、朔人さん、いつからわたしのことを名前で……。 


「わたし生徒会とかよくわからなくて、そういうの、やるつもりも全くなくて……」

「……じゃあ、説明する。なんでお前が選ばれたのかも」

「あ、そうですね! そうしていただけると大変ありがたく……」

 

 促されるままふかふかなソファに座り、事の経緯を話してもらう。


「説明するが、お前は入試のテストで順位が5番目だった」

「え、そうなんですかっ⁉ 嬉しいですっ……!」

 

 5位だったのかぁ。上位なのは嬉しいけど、いったい上の4人は誰なんだろ――。

 ハッ。


「も、もしかして上位4人って生徒会メンバーの皆さんだったりっ……⁉」

「朝比奈さん正解! おれはちなみに4位なんだけどね」


 うしろから声がして、首を180度回転――ってできないけど、くるりとうしろを向く。


「か、川澄くん……!」

「あ、覚えててくれたんだ! 嬉しいな」


 このキラッキラ王子様スマイルに、わたしはドキュンと心臓を撃ち抜かれた。

 眩しい……!


「えーなに、乃彩ちゃんとなんか関係あったりするの?」

「中学の時に少しだけ、ね」


 ニコニコと笑っている彼こそが、中学校が同じで当時告白された相手……川澄晴真くん。


 告白されたのは中2の夏、友達みんなで行った夏祭りでだった。

 恋愛は知ってたけど、好きっていうものがどういうものか、あんまりわからなかったから「友達でいたい」って言ったの。


 思い出してかあっと顔が熱くなる。

 すると、そんなわたしの耳元にしゃがみこんで、川澄くんがそっとささやく。


「おれ、まだ好きだから。朝比奈さんのこと、諦めてないからね?」

「~~~~~~っ!!」


 心臓に悪い…………! 

 ええと、それってつまり⁉


 ううう、心臓もたない……。


「あーそこイチャつき禁止ー! 晴真も座って」

 

 朔人さんにパンパンと手を叩かれて、川澄くんもソファに座った。

 ふーっと、ほてりを冷ますように深呼吸。

 で、何だっけ……。


「あっ、そうそう、テストの順位!」

「ほら、蒼良が説明しなよ」

「ああ。神楽学園の生徒会は、今年からいちばん上に生徒会長、その下に副会長、書記、会計、あと議長という4つの役がある。まぁ、本部の役員は合計5人必要ってっ事だ」


 そう言って神楽さんがテーブルの上に一つの紙を広げた。

 そこには生徒会の組織図が書いたあり、構成なども一目でわかる。


 生徒会の構成的には別に問題なさそうな普通の構成だけど……。


 あっ。


「気づいたか」


 わたしは「はい」とうなずいて、テーブルの上の紙を指でなぞりながら話す。


「生徒会長、副会長、書記、会計。その4つの分担には今それぞれ人がいるけど……議長のところ……」

「その通りだ。今生徒会メンバーは4人。役員の数とあっていない」

「それはどうして……」

「本当ならお前が生徒会特待生として入学するはずだった。だが、この議長というシステムはちょうど今年から導入されるそうで、学園長が

「忘れていた!!!???」


 学園長さんっ!

 なにしてるんですか――っ!!


 そんな忘れるなんてあるまじき行為を……!

 明るく笑って「忘れちゃったんだよね」と言っている姿が、安易に想像できてしまうわたしの頭はついにバカになっちゃったのかな……??


「だから、お前を改めて推薦する」

「そーそー、前向きに検討してねー」

「確か来週には生徒会の仕事がスタートするので、そこまでには決めてもらい所ですが……」


 推薦されて断ることができるわけない!

 わたし、朝比奈乃彩。


「やります!!」


 はっきり言って、わたしは立ち上がる。

 ガチャンッ。


 あっ⁉


 足が机に勢いよく当たって朔人さんのコップがっ。


 倒れた――っ⁉


 そして中に入っていたお茶は見事、わたしの方に来ることなく直進し……神楽さんの前に置かれていたお菓子まで到達。


 袋に入ったお菓子だったから、中身はきっと大丈夫だけど……。

 その後、わたしは神楽さんに向かって謝り続けることとなった。

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