第12話


お兄の言葉に、少し驚いた。


なぜお礼を言われるのか分からなかった。


「えぇ、なんでお兄がお礼言うの?」

私は不思議に思いながら尋ねた。


「はは。たしかに」

お兄が笑いながら答えた。


「ふふ、変なの〜」

その笑顔に、つられて私も笑った。


お兄の目にはまだ何か言いたげな表情が残っていた。


だけど、聞けなかった。

聞いたらいけない気がした。


「どこか寄りたいところとかある?スーパー寄ろうか?」


「ううん、大丈夫」


さっき湊さんから晩御飯は食べてくると連絡があった。


「じゃあこのまま家まで送るね」

お兄が優しく言った。


「ありがとう」


「あのさ、」

お兄が少し躊躇いながら口を開いた。


「何?」

私はお兄の言葉に耳を傾けた。


「お見合い結婚だって聞いたけど、…湊さんは彩花に良くしてくれる?」


「うん。優しいよ」


私は微笑んで答えた。

湊さんのことを思い出すと、自然と笑顔がこぼれた。


「そっか」

お兄が少し安心したように見えた。


「どうしてそんなこと聞くの?」


お見合い結婚だから…


「心配で、、」


やっぱり。


「もう私の心配しなくても大丈夫だよ」

私はお兄を安心させるように言った。


「そうはいかないよ」

お兄は少し笑って答えた。


「お兄は今も昔も心配性なんだから」


「彩花にだけだよ」


お兄の言葉に、私は胸が温かくなった。


昔から、私が困っていたから必ず助けてくれた。


「お兄はいつも妹みたいに可愛がってくれたよね」


私はお兄との思い出を振り返った。


泣いてる私を優しく慰めてくれたり、自分のことは後回しで、いつも私の事ばっかり気にしてくれた。


「そうかな、」

お兄が少し照れくさそうに答えた。


「そんなお兄が引っ越すって知って、すっごくすっごく悲しかった」


その時の気持ちを思い出して、少し涙ぐんだ。


「号泣してたもんね」


「でもこうしてまた会えて嬉しい」


もう二度と会えないと思ってたから。


「俺もだよ」


「そういえば、お兄仕事何してるの?」


なんだか小っ恥ずかしくなって、話題を変えようとした。


「マーケティングの仕事をちょっとね」


「へぇ。仕事大変?」

私は興味津々で聞いた。


「うん、忙しいけど楽しいよ。自分のやりたかった仕事だし毎日が充実してる」


「良かった」

私はお兄の幸せを心から喜んだ。

お兄には幸せになって欲しいから。


「彩花は?普段何してるの?」

お兄が尋ねてきた。


「家事、かな」

最近はまともに家事も出来てないけど。


「休みの日は?」

お兄がさらに聞いてきた。


「湊さんとお出かけしたり、家でのんびりしたり」


「楽しそうだね」

お兄の言葉に、私は頷いた。


今はまだ…。


「お兄も、早く素敵な人に出会えるといいね」

私は少しからかうように言った。


「俺は…」

お兄が少し言葉を詰まらせた。


「ん?」



「俺はもう見つけられそうにないや」

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