第11話
「じゃ、行くねお母さんおばあちゃん」
私は家を出る前に深呼吸をして、心を落ち着けようとした。
「気をつけてね」
母の声が少し震えているのを感じた。
「またいつでも戻っておいでよ」
おばあちゃんの優しい笑顔が心に染みた。
「うん。ありがとう。おばあちゃんも何かあったらすぐに言ってね」
私はおばあちゃんの手をぎゅっと握りしめた。
「ありがとさん」
おばあちゃんの手の温もりが心強かった。
「涼真くん、彩花のことよろしくね」
母がお兄に向かって頭を下げた。
「もちろんです」
お兄が車のドアを開けてくれた。
「どうぞ、彩花」
「ありがとう」
私は車に乗り込んだ。
シートベルトを締めると、お兄も運転席に座り、エンジンをかけた。
「気をつけて」
母の声が遠く感じた。
「いつ来ても彩花の家は賑やかだぁ」
お兄が笑いながら言った。
「永遠の別れでもないのに」
私は少し笑って、気持ちを軽くしようとした。
「一人しかいない娘なんだからそりゃ心配するよ」
お兄の言葉に、私は少し照れくさくなった。
「そういうものなのかな」
私は自分の家族の愛情を改めて感じた。
「そうだよ。それに、」
お兄が私を見つめて続けた。
「そんなところで育った彩花だからこそ、こんなにいい子に育ったんだね」
お兄の言葉に、私は少し恥ずかしくなった。
「そうかな、…あ、ねぇお兄」
私はふと思い出して、お兄に問いかけた。
昨日のこと、まだちゃんと話せてない。
「ん?」
お兄が少し驚いたように振り向いた。
「昨日言ってた約束って何のこと?」
私はずっと気になっていたことを聞いた。
「…あぁ、あれね。もういいんだ」
お兄の表情が一瞬曇った。
「え、なんで?」
私は不安になった。
そんな一日で良くなるような話だったのかな。
「その約束はもう叶えられないから」
お兄の声が少し寂しげだった。
「叶えられない?」
私は驚いて聞き返した。
…どうして、そんな悲しそうな顔をするの。
「うん」
お兄が静かに頷いた。
「私、約束破っちゃった?」
その約束がなんだったのか思い出せさえすれば、
「違うよ。彩花は幸せになった。それでいいんだよ」
なんの約束かは言おうとしない。
聞いて欲しくないのかもしれない。
それか、私に気を使って言わないのかもしれない。
「約束、忘れちゃってごめんね」
私は申し訳ない気持ちで謝った。
「いいんだよ。忘れちゃって」
お兄が優しく微笑んだ。
お兄は優しいからそう言ってくれるけど、普通なら針千本の刑は免れない。
「忘れていい約束なんてないよ」
私は真剣に言った。
「ありがとう」
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