第10話


「彩花〜運ぶの手伝って」

お母さんの声が聞こえた。


「あ、はーい。ごめんちょっと行ってくるね」

私はお兄に謝りながら立ち上がった。


お兄が何を言おうとしていたのか気になりながらも、手伝いに向かった。


「俺も一緒に手伝うよ」

「いやいやお客さんなんだから座ってて」

私は笑顔でお兄を制した。


「ありがとう、」

お兄は少し照れくさそうに微笑んだ。


お兄は何を言おうとしたんだろう。


私は心の中でその言葉の続きを気にしていた。


___



「いただきます。うん!美味しい。やっぱりお母さんの特製肉じゃが美味しすぎる!」

私は一口食べて感動した。


「それは良かった。涼真くんもいっぱい食べてね」お母さんが笑顔で言った。


いつもはあまり食べれなかったのに、食べてももどすの繰り返しだったのに、今日はお母さんの肉じゃがが美味しかったからか不思議と食べれた。


みんなと一緒にいると、心が落ち着いて食欲も戻ってきたのかもしれない。


「おなかいっぱい」

私は机に顔をつけた。


久しぶりにこんなに食べた気がする。


「湊くんも一緒に来れたら良かったのにね」

お母さんが言った。


「湊くん…?」

お兄ちゃんが不思議そうに尋ねた。


あ、お兄にはまだ湊さんのこと話してなかったんだ。


「え、?彩花まだ湊くんのこと話してなかったの?」


お母さんが驚いた様子で言った。


「うっかり。忘れてた。えっと、湊さんは私の夫、です、」


「なんで敬語なのよ」


「なんか、小っ恥ずかしくて、」

私は顔を赤らめながら答えた。


「旦那さん…彩花、結婚してたんだ」

お兄が驚いた様子で言った。


「うん」

私は少し照れながら頷いた。


「そっか。おめでとう」

お兄は優しく微笑んだ。


「ありがとう」


「あ、それなら俺…明日東京まで送らない方がいいかな」

お兄が少し心配そうに言った。


「え?」

私は驚いてお兄を見つめた。


「だってほら、旦那さんからしたら知らない男と奥さんが密室で二人きりなんて嫌じゃない?」


お兄の言葉に、私は少し考え込んだ。


「それなら大丈夫」

私は少し微笑んで答えた。


「そう?」


「うん。湊さんは、そういうの気にしない人だから、」


ヤキモチとか嫉妬とか。もうしてくれないんだよね。きっと。


「分かった。じゃあ明日の昼迎えに来るね」

「うん。ありがとう」


「ご馳走様でした。僕はそろそろここで失礼します」

お兄ちゃんが立ち上がった。


「あら、もう帰っちゃうの」

お母さんが少し寂しそうに言った。


「はい」

お兄は微笑んで答えた。


お兄が帰る準備をしている間、私は心の中で色々なことを考えていた。


お兄と話していると、昔の懐かしい思い出が蘇ってきて、心が温かくなった。


「また明日ね」

お兄が玄関で言った。


「うん、気をつけてね」

私はお兄を見送りながら言った。


お兄が帰った後、私はリビングに戻り、ソファに座った。


心の中でお兄との再会を喜びながらも、湊さんのことを考えていた。


湊さんは今、何をしているんだろう。



私のことを少しでも思ってくれているのかな。

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