第9話
「あなたもしかして…!」
お母さんが驚いた声を上げた。
「おばさんご無沙汰してます。涼真です」
涼真お兄が少し照れくさそうに挨拶した。
「やっぱり涼真くんだ。元気してた?」
お母さんは嬉しそうに尋ねた。
「はい」
お兄は微笑んで答えた。
「さっきたまたまばったり会って、荷物運ぶの手伝ってもらったんだ」
結局、最後の最後までお兄が全部持ってくれて、私も持つって言ったのに、
"いいのいいの。俺が彩花のためにしてあげたいだけだから。"
なんて言って荷物を渡そうとしなかった。
「そうだったんだ。優しいところは変わってないのね」
「とんでもないです」
「今はこっちに戻ってきてるの?」
母さんが尋ねた。
「いえ、今は東京に」
「あらそうなの?彩花もね今は東京にいてね」
お母さんは驚いた様子で言った。
「お母さんさっきもうその話したから」
私は少し笑って答えた。
「そっかそっか。あ、立ち話はなんだから入って入って」
お母さんはお兄を家に招き入れようとした。
「いえ、俺はここで」
お兄は遠慮がちに答えた。
「あ、この後予定あったかしら」
「そういう訳ではないんですけど、」
お兄は少し困った様子で答えた。
お兄困ってる。急にそんなこと言われたら戸惑うよね。
はっきり断っていいのに。お兄の事だから気を使ってるに決まってる。
「それじゃあ遠慮しないで入って入って。あ、こんな時間だし晩御飯も食べて行ったら?」
お母さんは強引に誘った。
「いえ、それは流石に、」
お兄は少し戸惑った様子で答えた。
「ちょっとお母さん、お兄が困ってるでしょ」
私はすかさず助け舟を出した。
「久しぶにり会えたのが嬉しくて、ごめんなさいね」
「いえ、そうではなく、ご迷惑かと、」
「迷惑だなんて。一人増えたぐらい変わらないから気にしないで」
お母さんは笑顔で言った。
そういう問題じゃ、
お兄ほんとに大丈夫なのかな。断りにくいかも。
「ではお言葉に甘えて、」
お兄は少し照れながら答えた。
お兄は家に入ると、リビングのソファに座った。
私もお兄ちゃんの隣に座り、
「ごめんね、お母さん強引で、ほんとに大丈夫だった?」
私はお兄に小声で尋ねた。
お母さんがキッチンで忙しくしている間に、そっと話しかけた。
「うん、明日帰るって言ってたから、家族水入らずで過ごしたいかなって思ったんだけど」
お兄は優しく微笑んで答えた。
「気を使ってくれてたんだね」
「まぁね、」
やっぱり、優しいところは変わってない。
「ありがとね」
「…あのさ、彩花」
お兄ちゃんが突然真剣な顔で言った。
「ん?」
私は少し驚いてお兄ちゃんを見つめた。
急に真剣な顔をして、なにか大事なことだろうか。
「あの時の約束覚えてる?」
お兄ちゃんの言葉に、私は一瞬戸惑った。
「約束…?」
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