第8話


「お兄こっちに戻ってきてたの?」

私は驚きと嬉しさが入り混じった声で尋ねた。


「いや、今は東京で働いてて、久しぶりに休みが取れたからこっちに戻ってきてたんだ」

涼真お兄ちゃんは少し照れくさそうに答えた。


まさか東京に住んでいたとは。


「そうなんだ。私も東京に住んでるんだけど、色々あって今はこっちに。と言っても明日また戻るんだけどね、」


「俺も明日東京に戻るんだよ。あ、明日車で送っていこうか」


「え、いいの?助かる…けど迷惑じゃない?」

私は少し遠慮がちに尋ねた。


「もう、水臭いなぁ。そんなとこも変わってないけど」

お兄ちゃんは笑いながら言った。


「えへへ、」

「いいんだよ。俺たちの仲でしょ」


今でも、私のことを妹みたいな存在として、可愛がってくれることが嬉しかった。


「じゃあ…お言葉に甘えて、」


「なんにも変わってないんだなぁ」

お兄ちゃんは感慨深げに言った。


「そう?」

私も、成長したはずなんだけどなぁ。


「うん。彩花は昔から人に頼るのが苦手で、むしろ手伝わせてって俺がお願いして手伝わせてもらってた」


お兄ちゃんの言葉に、私は昔のことを思い出した。


「そうだったっけ」

私は少し照れくさそうに言った。


お兄は昔から、困っている人がいたらほっとけない性格だったからなぁ。


「そうだよ。…変わってなくて良かった」

お兄ちゃんは優しく微笑んだ。


「え?」

私はお兄の言葉の意味を考えた。


「なんでもない。荷物貸して。家まで運んであげる」


お兄ちゃんは私の荷物を取ろうとした。


「いいよいいよこれぐらい。一人で持てる」


「いいから貸して」

お兄は強引に荷物を持ってくれた。


「何から何まで、ありがとう」


再会した当日から荷物運ばせて、明日だって東京まで送ってくれるって言うし。


「ねぇ、覚えてる?」

お兄ちゃんが突然尋ねた。


「何?」

私は少し驚いてお兄ちゃんを見つめた。


「彩花が小学生の時に、近所の犬に追いかけ回されて泣いて逃げてたよね。俺あれ見てびっくりしちゃってさ、」


お兄の言葉に、私は昔のことを思い出した。


「あったあった。お兄が木の枝振り回して追っ払ってくれたんだよね」

私は笑いながら答えた。


「俺も怖かったからへっぴり腰で、しかも泣きながら。ははっ。今考えてもカッコ悪かったなぁ」

お兄ちゃんは笑いながら言った。


「そんなことないよ」


自分も怖いのに、私のために前に出て守ってくれて、すごくかっこよかった。


「あ、そういえば学校の帰りに…」

私はさらに昔の思い出を話し始めた。



涼真お兄ちゃんと話していると、なんだか昔に戻ったみたいで、新鮮で、楽しかった。

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