第7話

湊さんは快く承諾してくれて、


「俺の事なら気にせずに一日だけじゃなくて一週間ぐらい家族水入らずで過ごしな」


って言ってくれたけど、色々心配だから断った。


湊さんの優しさに感謝しつつも、私は自分の気持ちを優先することにした。


実家に帰ってきて落ち着いたのか、体がピンピンしてる。


「晩御飯の買い出しまだだったら私行ってくるよ?」


私はお母さんに提案した。

少しでも役に立ちたかった。


それと、動ける時に少しでも動いておきたかった。


「もう。久しぶりに帰ってきたんだから、ゆっくりしていいんだよ?」


お母さんは優しく言った。


「今日は動きたい気分なの」

私は笑顔で答えた。


「いつも動いてるのに、ありがとね」

お母さんは笑った。


私はスーパーに向かって歩き始めた。


久しぶりの実家の周りの風景が懐かしく感じられた。


道端の花や、昔よく遊んだ公園を見ながら、少しずつ心が落ち着いていくのを感じた。


スーパーに着くと、買い物リストを確認しながら必要なものをカゴに入れていった。


買い物を終えて家に帰る際、袋が破れてしまった。


「リンゴが、」


目の前でリンゴがコロコロ転がっていくのをただ眺めていた。


きっと今更走っても間に合わない。


「あ…」


私は呆然とリンゴを見つめた。


すると、誰かの足に止まった。


その人はリンゴを拾い上げ、ハンカチで優しく拭いた。


「すみません、それ私のりんごで…お兄…?」

私は驚いてその人を見上げた。


お兄がここにいるはずないって分かってるけど、そっくりだから。


「え、」

その人も驚いた様子だった。


「涼真お兄ちゃんだよね?」


私は信じられない気持ちで尋ねた。


「もしかして彩花か?」

涼真お兄ちゃんは目を細めて私を見つめた。


「うん!お兄久しぶり」

私は嬉しさで胸がいっぱいになった。


お兄は私の隣の家に住んでて、昔から可愛がってもらってた。


だけど私が中学生の時、家の事情で引っ越すことになって、あれから一度も会えていなかった。


あの時はスマホも持ってなかったから、連絡するすべもなかった。


「うわぁ、大人になったなぁ。誰だか気づかなかったよ」


涼真お兄は感慨深げに言った。


「お兄は相変わらず」

私は微笑んで答えた。


相変わらず優しい。

昔となんにも変わってない。


「なんだよ相変わらずって」

お兄は少し照れくさそうに笑った。


「ふふ、内緒〜」

私は冗談っぽく答えた。



「見た目は変わっても中身は全然変わってないなぁ」


お兄は優しく微笑んだ。


その笑顔に、私は昔の懐かしい思い出が蘇ってきた。

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