第5話


「彩花、大丈夫?」

湊さんがドアを開けて部屋に入ってきた。


私はベッドに横たわりながら、彼の心配そうな顔を見上げた。


「うん、ごめんね、、ご飯作れてなくて」


体調が悪くて、何も手につかない。

体がだるい。


「彩花は何か食べたの?」

湊さんは私の顔を覗き込む。


「食欲なくて、」

私は視線をそらしながら答えた。


「食欲なくても少しは食べないと。お粥作るから待っててね」


湊さんは優しく微笑んで、キッチンに向かった。


「ごめんね。ありがとう」


あれから一週間。


食欲がないどころか、ますます体調が悪くなっている。多分、これがつわりというものみたい。


「美月、起きれる?」

湊さんが再び部屋に入ってきた。


「うん、」

私はゆっくりと起き上がった。


「熱いから気をつけてね」

湊さんはお粥の入ったお椀を手渡してくれた。


「ごめんね」

私はお椀を受け取りながら謝った。


本当はご飯も私が作らないといけないのに。


「もう。さっきから謝ってばっかり」

湊さんは少し笑って答えた。


「だって、お仕事で疲れてきたのに、私の代わりに家事までさせちゃって」

私は申し訳なさそうに言った。


「謝らなくていいよ。家事をしてもらうために彩花と結婚した訳じゃないからね」

湊さんの言葉に、少しだけ安心感が広がった。


「だとしても…」


「いいから。冷めないうちにどうぞ」

湊さんは優しく促した。


「いただきます、」

私はお粥を一口食べた。


相変わらず、湊さんの料理は美味しい。


こういうシンプルな料理だからこそ、腕の差が出る。


「どう?」

湊さんは心配そうに尋ねた。


「美味しいです、」

私は微笑んで答えた。


「良かったです。じゃあ俺はシャワー浴びてくるね」

湊さんは立ち上がった。


「うん、」


「ごゆっくり」

そう言うと、湊さんは部屋を出て行った。


調子に乗って食べすぎたせいか、


駄目だ、気持ち悪い。


「うっ、」

吐き気が襲ってきた。


だめだめ。さすがにここで吐くわけには、私は必死に耐えた。

___


「間に合った、」

私はトイレから戻り、湊さんに気づかれないように息を整えた。


「全部食べれた?」

湊さんがシャワーから戻ってきた。


「あ、うん」

私は微笑んで答えた。


「良かった」

湊さんは安心した様子で微笑んだ。


湊さんにはこのこと黙っておこう。


「明日からまた頑張るから」

私は湊さんに向かって言った。


「いいって。今は大変な時期なんだから自分のことだけ考えな」

湊さんは優しく言った。


「え?」

私は驚いて湊さんを見つめた。


大変な時期って、


「えーっと、ほら、最近体調悪い日が続いてるでしょ?」

湊さんは少し照れくさそうに言った。


なんだ。そういうことか。



「うん、ありがとう」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る