癌霊

@2321umoyukaku_2319

第1話 悪霊が癌を引き起こす

 消化器外科医として長年にわたり悪性腫瘍の手術をして、気付いたことがある。

「この癌は何か違う、悪い予感がする」

 そう思いながら切除すると、再発するのだ。

 そう思わなければいいのでは? と考える方がいるだろう。

 いや、思い込みの問題ではないのだ。術前検査では早期癌で、手術は無事成功し、病理検査でも問題なしであっても不安が残り、数年経つと……再発してしまう。

 この悪い予感の正体は分からない。だが子供の頃から私には虫の知らせとか第六感といった予知能力があった。それが癌の再発に対しても働くのだろう。

 こんなことを書くと、医者失格と思われるかもしれないが、事実は事実だ。

 笑われついでに綴っておく。私のこの特殊な能力は進化しつつある。予後不良な癌に侵された人物を、一目見ただけで分かるようになったのだ。そういう患者は手術も放射線治療も化学療法も無効である。苦しみ抜いて死ぬしかない。

 一目で分かるなんて、大袈裟な嘘を吐くな! との意見があるだろう。

 だが分かるのだ。その人に悪霊が憑りついているのが、見えるのだ。

 ちなみに、癌を引き起こす悪霊は鏡に映るから、自分で見て診断が可能だ。

 私も、鏡を見て気付いた。慌てて検査した。末期癌だった。悪霊による癌だ。

 勿論これが幻覚妄想の一種である可能性はある。私の癌は脳に転移しているから、それが原因でありもしない幻を見ているかもしれないのだ。だから、癌の原因の一つは悪霊という私の学説は、夢幻の領域いうなれば戯言に過ぎないと判断されても仕方ないとは思っている。痛み止めの麻薬が見せる幻想だと笑われても、遠くなる意識の中で、私は最期まで、悪霊による悪性新生物に関しての論文を書き上げる覚悟だ。

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