第115話

 まさかこのまま犯されるのではと恐怖を感じ、ロキはオーディンの姿を見上げる。

 覚悟はしていた。なんの感情も持たずやり過ごすつもりでいたが、できれば痛みや恐怖は避けたかった。


「やめろオーディン! ちゃんとやるから、縛るのは……って、は?」


 ロキは驚き目を瞬いた。

 オーディンはロキを縛り上げ吊るしたまま、自分はさっさと寝台に寝転がったのだ。


「な、おい、ちょっと、何してんだ」

「うるさい、チビ、黙れ」


 そう言って、ロキに向かって手を払うそぶりをするとオーディンは背を向けたまま枕に頭を置いて毛布を被った。


「おい! オーディン! 器創るんじゃないのかよ!」

「あー、うるさいうるさい! 今度喋ったらその口縫うぞ!」

「ふざけんなって!」

「チッ」


 舌打ちしたオーディンはガバリと寝台から起き上がった。挑発に乗ったのかと思ったロキは身構える。

 しかし、オーディンはロキの顎を掴み上げると、うんざりしたようにため息をつきながら、ロキの口に布を押し込んできた。


「んぐぅっ!」

「だまれチビ」


 オーディンは吐き捨てるようにそう言った。


「匂うな。品のない匂いだ。鴉に何か飲まされたか」


 言われてはじめて、ロキは自分の体で昂り始めた熱に気がついた。

 ここに来る前に、鴉に促され薬湯を飲んだのだ。それは催淫効果があり、オメガの匂いを誘発するものだと聞かされていた。

 どうせやることやるのなら、正気を失うほうが楽だろうかと思ったロキは、言われるがままそれを飲んだのだが、まさかオーディンがこんな予想外の行動に出るとは思いもしなかった。


「浅ましいやつだ。器を創って神としての地位を手に入れよう、といったところか? あ?」

「んぐっ!」


 ロキはただ唸った。

 どういうことだ、オーディンは自らオメガに器を創らせようとしているのではないのか。だからわざわざ遣いまでだして、ロキを連れて行こうとしたのだと思っていたのに。

 口を塞がれているせいで、その疑問を今目の前の相手にぶつけることができない。


「あー、最悪だ。くさい」


 オーディンはわざとロキに見せつけるように顔を顰め、顔の前で手を振った。

 寝台に戻ると、オーディンは脇のテーブルに置かれていた水差しからグラスに水を注ぎ、そこに何やら小瓶から液体を流し込んでそれを一気に飲み込んでいる。そしてまたのそりとロキに背を向け、寝台の上で横になった。


「んー! んんんー!」

「あーうるせっ」


 ロキは必死に唸ったが、その後もオーディンが態度を変えることはなかった。やがてオーディンは頭まですっぽり毛布を被り、どうやらそのまま眠ってしまったようだ。





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