ギルド職員は気に入らない
「……本当に、あのヒョロメガネは何を考えてるんですかね」
一日の仕事を終え、木漏れ日亭でエールを
彼女の言う『ヒョロメガネ』とは、もちろんギルド長のヘンリーのことである。
「そ、そうだな……ただ、カイラ殿から受け取った書状を見て即決したから、何かあるんじゃないか?」
顔色を
昨夜に引き続き今夜も不機嫌なエマに付き合わされてたまったものではないが、それでも、ギルラントにおいて彼が留守を任せることができる数少ない仲間。王都に行って不在にしていた件も含め、できる限り埋め合わせをせねばと考える彼はやはりお人好しである。
「それですよ! 出世も見込めないこんな辺境のしがないギルド長のくせに、一体何に気を遣っているんですかね!」
「さ、さあ……」
そんなことを聞かれても、ジェフリーに分かるはずもない。
とにかくエマの機嫌がこれ以上悪くならないように、ジェフリーはひたすら当たり障りのない言葉と反応を選び続けるだけ。
「しかもあの女、身の程知らずにもまたジェフさんに勝負を挑んだらしいじゃないですか! ……まあそれはコテンパンにしてくれたみたいですので、観られなかったことだけが残念ですけど」
「は、はは……」
どうやらカイラとの試合に勝利したことで、少しは
もしこれで負けでもしたら、ジェフリーは一晩中正座させられていただろう。
「……ジェフさんはあの女のことを、どう思ってるんですか……?」
まだ店に入ってから三十分しか経っていないのに既に目の座っているエマが、ジェフの顔を
(こ、これは、どう答えるのが正解なんだ……?)
ギルド職員としてヘンリーが採用してしまった以上、今さら追い出すようなことはできないし、そんなことをしたらギルドの研修で注意喚起されていた、いわゆるパワハラに該当してしまう。
さすがのエマも同僚に対して露骨な嫌がらせはしないと信じたいが、カイラに対する感情とは別。
いずれにせよ、ここで選択肢を誤ったら大変なことになる。
そう考えたジェフリーが選んだ答えは。
「ど、どう思うも何もないだろ。彼女はディアの元秘書で、今日から俺達の同僚になった。それ以上でもそれ以下でもないよ」
まず第一に日和る。そして自分はカイラに思うところはないとアピール。
そう……ジェフリーは保身に走ったのだ。
「ふ、ふーん……じゃあジェフさんは、彼女のことは何とも思ってないんですね?」
「ない。断じてない」
つん、と口を尖らせつつジェフリーを見やるエマに、彼はかなり強い口調で即答した。
変に誤解されたくもないというのもあるが、何より男女の仲になるとか、そんなことがあり得ないと思っているからこそ、ほんの少しでも期待したくないというのがジェフリーの本音。
この世に生を受けて二十八年。これまで女性に縁のなかったジェフリーは、
「へえー……カイラさんってあんなに綺麗なのに、ジェフさんは興味なしなんだあ……」
先程までの不機嫌な様子から一変し、エマはどこか嬉しそうに口元を緩める。
どうやら正解を選択することができたようで、ジェフリーは心の底から安堵した。
「まあ、そうですよね。そもそもジェフさんに興味を持つ女性なんて、教え子くらいしかいませんし」
「余計なお世話だ」
教え子たちはあくまでも『先生』として慕ってくれているだけ。
そんなことは百も承知のジェフリーは、エマに
すると。
「いやあ、待たせたね」
現れたのは、ヘンリーとカイラ。
そもそもジェフリーとエマが二日続けて木漏れ日亭に来ているのは、カイラの歓迎会をするためだ。
提案したのはもちろんヘンリー。飲食代も全て彼持ちである。
王都での二週間と昨夜エマに
エマは本当なら欠席するつもりだったが、『ジェフリーが参加するのなら』と、渋々参加したのだった。
「待ってませんよ。むしろこのまま店が閉まるまで来ないで、食事代だけ払ってくれればいいんです」
「うへえ、相変わらず僕への風当たりがきついなあ……」
ジョッキ片手にエマが放った辛辣な言葉に変な声を漏らすヘンリーだが、いつものことなのでむしろ挨拶代わりのようなもの。
ジェフリーは無視しつつ、二人が座れるように席をずれる……のだが。
「えーと……」
「ジェフリー殿、よろしくお願いします」
カイラは
てっきり隣にはヘンリーが座ると思っていたので、どうしたものかとエマを見ると。
「…………………………」
案の定仏頂面になったエマが、ヘンリーを押し退けて自分の隣に来るように促す。
(ど、どうしようこれ……)
エマとカイラの顔を交互に見ながら、ジェフリーは茫然と突っ立っていた。
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