夕暮れの歌舞伎町 ~さくにゃんとのあ。ちゃん~
バイトを終えたさくにゃんは小田急線に乗り新宿駅へ。そして今日も歌舞伎町へと向かいます。
靖国通り沿いからネオン輝き始めた一番街アーチをくぐり、煌めく通りを抜けて花道の交差点から二番通りを行った先――大久保公園を見下ろすように立つ古ビルに入り、年季の入ったエレベーターで最上階を目指します。
ガタゴトと不穏な音を立てて到着した箱から降りると、フロアには照明も点いておらず、窓から射すわずかな明かりしかありません。
さくにゃんは見知った様子で通路を進みます。やがて階段に行き着き上がると、屋上へ出るドアが現れました。
合鍵を使い、さくにゃんは錠を外します。
開いたドアの先は暗くなり始めた空、繁華街の光が、安全用フェンスの先で輝いていました。
ただっ広い屋上の中心にはテントがあります。近くにはキャンプ用の椅子と焚火台。散乱したペットボトルやカップラーメンの空容器。
目をフェンスの周囲に向けると、身体を預け街を見下ろす人影がありました。
さくにゃんは微笑み、それから二歩三歩と近づき、
「のーあ。ちゃんっ☆」
と、声をかけました。
フェンスの前の小柄な人影が振り向きます。ショートカット、白に近い金髪。右耳には二つ開けた金のピアス。黒い大きめのパーカーに紺のショートパンツ。
「――あ」
見た目に美少年か美少女にも見えるその娘は、さくにゃんを見つけて眠そうな顔に嬉しそうな笑みを浮かべました。
「さくら」
さくにゃんは彼女の隣へ行き、まあるい瞳でその顔を見つめます。
「何してたの?」
「別に。――起きたばっかで、街見てた」
「また昼夜逆転しちゃってるんだぁ。。」
「それな。ってか、十五時間ぐらい寝袋イン?」
「冬眠? もお春ですよ~☆」
「それな。腰あいたた~よぉ。。」
「生活改善しなきゃ☆」
「わかりみ。でも、血圧ローでダルダル」
淡々と答えるのあ。ちゃんの表情は変わらず眠そうでアンニュイです。さくにゃんは微笑んだまま、そこに何かを探すように目を細めます。
「お腹空いてない? ゴハン食べに行こーよ☆」
「あーいっすねぇ~。。どしよ。モス? マック?」
「もうちょいちゃんとしたもの食べよっか☆」
のあ。ちゃんは唇をへの字にして悲しそうな顔をします。フェンスの上に顎を乗せ、暮れなずむ街に目を向けました。
「ねぇ、さくら」
「なに?」
のあ。ちゃんは遠くを見る目をさくにゃんに移し、濁った瞳に彼女の顔を映します。
「今――ここから飛び降りてさぁー、一緒に死んでくれつったら、どーする?」
「イヤかな☆」
さくにゃんは、微笑んだままでした。
※ 次回、ちょっと間空きます。
地雷女vs空手男 なつくもえ @natukumoe
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