ゆりし庵の午後☆ ~さくにゃんとまゆまゆ~
――午後三時。昼も遅くを回り、ゆりし庵にご主人さまの姿はなく、ヒマを持て余したさくにゃんとまみまみはまったりモードです。メイド長代行のしずはさんも、カウンターに座り新聞を読み耽っています。
「……今日はヒマっすねぇ~」
「連休前だからねぇ~☆」
入り口前のカウンターに頬杖を着き、大きく欠伸して言ったまみまみにさくにゃんが答えます。
平日ということもあり、本日は昼時を過ぎてからご帰宅するご主人は少ないようです。夕方になれば、学校帰りや仕事上がりで寄る方もおられるのですが。
「チラシ行くにも半端な時間だし、今日は遅番二人っすからねぇ~……あ、そいやさくにゃん、昨日のミコくんの配信見ました?」
「途中までは☆」
小首を傾けて答えるさくにゃんに、はぁ、とまみまみは熱い吐息を漏らします。
「リュウくんとの絡み、よかったすよねぇ~……ミコくんお茶目なトコあるし、リュウくんのマジメさがいい感じに空回りしてて。――まあウチとしてはタケくん攻めのミコくん誘い受けが大正義であることは変わらないんすけどもっ!」
推しであるVチューバーのカップリングを強調しつつ、まみまみはキラキラとした乙女の眼差しで虚空を見つめます。きっとそこには彼女の脳内VRによるバラ色の妄想世界が創られているのでしょう。
さくにゃんは、生温かい視線でそれを見守りました。
「今度、四聖獣福音書のオンリーイベあるんすよ。コッコ時代の腐女子仲間と行くんすけど、さくにゃんもどうっすか?」
「さくにゃんはいいかなぁ~☆」
「そうっすかぁ? ……タケ×ミコでウチ一押しの作家さんも本出すんすけど、その人今回限りで同人活動休止しちゃうらしいんすよねぇ~」
今度は憂いのため息を吐き、まみまみは一転して落ち込んだようにうなだれました。
「その人、一般紙でプロの漫画家目指してたんすけど、自分の才能に見切りつけたので一度漫画そのものから離れることにしました、って、SNSで言ってて……」
ちらり、とさくにゃんは横目でまみまみを窺います。
「絵、うまいし、ウチはBL二次本しか読んだことないけど構成もちゃんとしてるし……そりゃ圧倒的な魅力があるかはわからないけど、何十回も漫画賞に投稿してるらしくて……それだけ努力してもダメなんだから、厳しい世界っすよねぇ……」
「そだねぇ。。努力って、基本的に報われないモノだからねぇ。。」
柔らかい口調で、それでいて辛辣なコトをさくにゃんははっきりと言い切りました。まみまみは顔を上げ、ちょっと不服そうにさくにゃんを見つめます。
「じゃあさくにゃんは、努力無意味派なんすか?」
ん~、とさくにゃんは視線を天井に向け、右の人差し指を顎に当てました。
「基本的には、そうかも。でも千回くらいやれば、もしくは一万回くらいやれば――一度くらいなら、努力の人にもチャンスあるかもっ☆」
満面のキュート笑顔で告げたさくにゃんに、ひぇ、とまみまみは慄いた声を上げます。
「さくにゃん、ケッコーシビアっすねぇ……」
「そっかなぁ(*^。^*)」
華やいだ女子トークがちょうど一区切りついたところで入り口のドアが開き、カウベルの音が店内に響きます。
『おかえりなさいませーご主人さま☆』
揃って声を上げるさくにゃんとまみまみ。新聞を畳んで背後の棚に置くと、しずはさんはカウンターのタブレット端末に触れて入力の準備をします。
メイド喫茶ゆりし庵、本日は午後九時まで絶賛営業中です☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます