閑話休題 さくにゃん☆とーく with右京くん
大学での講義後、ゆりし庵でバイトをこなし、さくにゃんは駅のホームで電車を待ちます。
本日のコーデは黒のスカンツに灰色のブラウス。ダークな雰囲気でまとめ、いつもに比べてゴス感二割増し。ツインテ―ルにつけたピンもク〇ミです。
本日は毎週恒例、会長得意の格ゲー〝闘拳〟大会。開催場所はサークル内で一番広い部屋に住む市ヶ谷先輩のお部屋です。
普段こーいうのにはそれほど参加しないさくにゃんですが、今日は暁くんたちも来るらしいので遅くならない時間まで付き合おうという算段です。
闘拳はわりと好きなのですが、やはりゲームのバトルでは物足りなさを感じてしまうのでっ☆
「――さくらちゃん」
不意に名を呼ばれ、さくにゃんはそちらへ顔を向けます。
「やあ」
そこにはマッシュルームヘアのイケメンくん、橘右京くんがホームの階段を上がってきたところでした。
「右京くん、この間はどうも(*^▽^*)」
ニコッ☆ と得意のキュートスマイルを浮かべ、さくにゃんは両手を太ももに添えてお辞儀します。右京くんもイケメン特有の罪なき当たりのよい笑顔でそれに応えます。
「うん、楽しかったよ。――できれば君とはもう少し一緒にいたかったけど」
「あは☆ あの日は予定おせおせでつらたん(>_<)だったので、ごめんなさいです」
やんわりと意味深会話スルー。モテる女子のスキルです。右京くんも動じず微笑を崩しません。
「仕方ないね。サークルの新入生歓迎コンパだっけ?」
会話の最中、電車がホームに入ってきます。二人は並んで乗り込み、ドア付近に立ちました。
「そう。コッコの後輩が入ってくれたから、ケッコー上がったよ☆」
「へぇ……それって文学部の蔵坂くんって男の子?」
さらりと出た名前に、さくにゃんは大きんなおめめをぱちくり瞬きました。右京くんが彼と接点があるとは知らなかったからです。
「そうだけど、わたし、右京くんに話したっけ?」
「今日、講義終わりに会いに来たよ。どうやら君と僕が付き合うのが気に食わないみたいだね」
も一度ぱちくり。してから、さくにゃんは思わず吹き出しました。
「あははっ☆ そうなんだぁ~。。そいえば新歓でそんな話もしたっけな~(*^▽^*)」
小気味よく笑うさくにゃん。右京くんは一瞬強張った表情をしましたが、すぐに笑顔に戻りました。
「かわいいんだよねぇ、彼。。右京くんから見て、暁くんはどうだった?」
まあるくて黒い瞳が右京くんを映します。逃れるように、右京くんは窓の外へ視線を移し流れる景色を見つめました。
「無神経で遠慮知らず。いかにも体育会系の熱血って感じで――」
蔑むようにふっと鼻で笑い、右京くんは顔を戻します。
「嫌いなタイプだな」
「あははははっ☆ 右京くんはそう言うと思った~( ´∀` )」
いっそうおかしそうに声を上げて笑うさくにゃん。右京くんの唇がひきつったようでしたが、それは多分気のせいでしょう。
理解あるイケメンくんがそんな表情をさくにゃんに見せるハズありません。ありえないのです。
右京くんは窓の外を見つめて黙りました。さくにゃんも倣います。
電車は進み駅のホームが見えてきました。大学の最寄り駅。さくにゃんのアパートもこの近くです。
「――ところでさ、どう? 今日、僕の方来ない?」
電車の速度が落ちていく中、右京くんは目も合わせずに誘いをかけます。
「ん~"(-""-)" 今日は闘拳大会あるから、やめとくね☆」
んが、イケメンくんからのお誘いでも断らないといけない時はあるのです。さくにゃんにとって、わりと満足するカレの顔が見られたからでもありますが。
「……それは残念」
「また今度ね☆」
電車のドアが開き、さくにゃんはホームに下りました。右京くんちはまだ先です。彼の表情が、どこかほっとしたのをさくにゃんは見逃しませんでした。
「ねぇ、右京くん」
一歩、二歩歩いてから振り向き、さくにゃんは車内の右京くんに目を向けました。
「何だい?」
すぐにイケメンスマイルに切り替え右京くんは答えます。唇の両端を吊り上げ、さくにゃんは小悪魔チックに嗤いました。
「もし、暁くんに勝てたらさ――もう一度、やってあげてもいいよ?」
ぎくり、としたように表情を歪める右京くん。言葉を返せないままドアは閉まり、電車は駅を出てゆきます。
「またね~☆」
小さく言って、去り行く電車に手を振ると、さくにゃんはホームの階段を小走りで上がって行くのでした――。
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