第七話 本音を隠すのも、人間関係では大事。にゃん☆


「――あーけったるいッ! 次や次っ! ポン酒があるトコがええなぁ!!」

 夜風を肩で切りながら、中州端会長は先頭を歩いている。

 二時間ほど飲み食いしたのち俺たちは安居酒屋『一平』を出て、進むは俄かに人の増えた歓楽街の大通りだ。

 ちなみにメンバーから一年女子は綺麗にいなくなっていた。

「んもぉ~……えまさんがそんな調子だからっ、女の子たちビビって帰っちゃったんすよぉ? 佐助くんがウザいくらい絡んでたせいもあるでしょうけどぉ~」

 ぼやきながら、あとに続く朝倉先輩がそばにいる矢木内を睨む。

「いやいやっ! んなこと言ったって自己紹介は必要でしょう!? それに同じサークル入るなら連絡先は交換しないと!」

「がっつきすぎなんすよ! 彼氏いるとか聞いてたしっ。そもそもっ、あの娘たちBL目当てで来てたんだから、キミみたいな軽い男に迫られたら引くに決まってるでしょ!」

 眉を逆ハの字にして朝倉先輩は語気を強める。結構本気で怒っているようだが、童顔なので迫力がない。

「そんなぁ~。サークル入るなんて=不純異性交遊が前提じゃないですかぁ~。だったらむしろ聞かない方が失礼だなって。なぁ、暁もそう思うだろ?」

 背後の俺に首を向ける。

「俺に振るな……言っておくと、お前の前提は間違ってる」

「えぇ~裏切るのかよぉ~!」

 知るか。恨みがましい目で見てくるな。筋違いだ。

 内心で思うも声に出すのも怠く、俺は右手で矢木内の頭を掴んで強引に前を向かせた。

「あたたたたっ! おい空手家! 素人に暴力やめろよぅ!!」

「そう思うならいらんことを言うな」

「ふ、腐女子相手にチャラいヤツは無理だろ……で、でもよかったよ。あ、朝倉一人で、ふ、腐女子要員は十分だ……」

 俺の横を歩く市ヶ谷先輩が低い声で言う。

「あ、あんなに入ってきたら、き、近エン研が腐女子勢力で染まっちまう。……い、色々いるのが、うちのサークルの魅力だろ……」

「まあそれもそうなんですけどぉ~……でもぉ~」

 名残惜しげにクドクドとぼやく朝倉先輩。途端、スパァン! と乾いた音を立てて会長の平手が走った。

「くどいわまみっ! 一次会で帰るようなノリ悪い連中は、我が近エン研には不要やっ!!」

「いったぁ~! ……もう、何すんすかぁ~!」

 頭を叩かれ抗議の声をあげる朝倉先輩。構わず、会長はずんずん歩いていく――と思ったら、突然立ち止まった。

「そや! 二次会は、お前が働いてるメイド喫茶にするかっ!」

 ニヤリとした笑顔を向けて、唐突に提案する。

「え~! 勘弁してくださいよぉ~! うちの店お酒置いてないですし、えまさんが騒いだらわたしが代行に怒られるんすよぉ~」

「酒は買ってけばええやん。その方がコスパよいし」

「持ち込み禁止に決まってるでしょ! 日本酒飲みたいんなら~もっといい店ありますってばぁ~!」

 縋るようにして、朝倉先輩は必死に待ったをかけている。会長は「なんや、つまらん。お前もノリ悪いなぁ~」と、興が冷めたように言い捨てた。

 ……いや、正直俺も帰りたい。

 一次会は目の前で中州端会長の自慢や愚痴を延々聞かされる時間だった(闘拳、という格ゲーがえらい強いらしい。話の合間に酒を飲まされそうになり、それをかわすのも非常に面倒だった)。時折市ヶ谷先輩とも少し話したが、ほとんどが会長の話に対するツッコミで会話と言えるほどのものでもない。

 朝倉先輩は一年女子に付きっ切りだったし、矢木内も邪険にされても構わず彼女らに話し続けていた。

 俺は話すどころか顔すら覚えられなかったが――いや、矢木内のように下心があったわけではないけども――無為な時間なりに、大学内での知り合いを増やすことくらいはしておきたかった。

 このまま二次会に行っても同じような時間が続きそうだし、それならいっそ明日に備えて早く寝たい。明日は土曜で道場の稽古も昼からあるし、その前にバイト探しもしておきたいし。

 一次会はどうにか避けられたが、次は酒も飲まされそうだし。

 ぶらぶらと皆で新たな河岸を探す中どう切り出そうかと考えていると、隣の朝倉先輩が不意にスマホを取り出し、画面を見て、「あっ」と叫んだ。

「さくにゃん、合流できるみたいっすよ! 今駅前ですって!」

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