閑話休題 さくにゃん☆さんぽ
☆ゴキゲン☆ のデートも終わり、さくにゃんは陽が暮れ賑わい始めた繁華街を横目に軽やかに歩みを進めます。
この街が本当に目覚めるのは今くらいの時間から。俄かに人の数が増え、サラリーマンや学生、不登校児に無職、水商売のホストとキャバ嬢、インバウンドの外国人や何者なのかもわからない人――誘蛾灯に呼ばれるように集まってきた彼彼女らがコントラストを作り、この街を唯一無二の〝色〟で染め上げる。
通りに沿って隙間狭しと並んだビルには無機質さを隠す派手な装飾が施され、居酒屋、クラブ、コンカフェ――その他いかがわしい店が活気を放ち、集まる人々からすべてを奪おうとする吸引力を放つ。
惹きつけられた者はこの街を作る一部となり、新たな者を惹きつけるための原動力としてさらに消費される――この場所は街自体が意思ある一つの生物であるかのように、来る者を飲み込み続けて成長しているのです。
「こんちわ! カワイイねぇ! 今ヒマ? 俺いい店知ってるんだけど飲まない? ――またオナシャス!」
キュートな容貌に見惚れ、声をかけてくる男たちをいなしながら街を眺めていたさくにゃんは、ふっ、と冷たい感覚に襲われた。
魔性の魅力と底なしの残酷さを併せもった街。その場所に縛られ続けることは、自分が自分であることの価値を摩耗させるしかないのだと。
擦り切れ薄くなって、それでも縋るしかない自分。それでもそこで〝在り続けて〟向かう先にあるのは、自我を亡くした亡霊ではないかと。
「――さくらじゃねぇか」
不意に前から声をかけられ、さくにゃんは顔を上げる。
正面からやってきたのは小柄でオールバック、長い髪を背中で束ね、鋭い目つきをした黒スーツの男だった。
「(*^▽^*)ノコンチャ、雷さん。これからお仕事ですか?」
さくにゃんがたっぷり愛嬌のこもった笑顔で応えると、雷さんは仏頂面のまま頷きました。
「ちょいと支払い焦げ付いてるところがあってなぁ。開店前に、二、三件回るところだ」
雷さんのうしろには大柄な金髪の男性と、唇にピアスをつけた坊主の男性がいる。どちらもさくにゃんには見覚えがあるのだ。
「そうですか、頑張ってください☆」
さくにゃんが激励すると、雷さんはふんと息をつき、それからさくにゃんが来た通りの方へ首を向けた。
「会いに来たのか?」
「はい、デートも兼ねて☆」
雷さんは眉間に皺を作ると、面白くなさそうに頭をかいた。
「連中にとっちゃあ象徴だからなぁ、ったく……三月の補導作戦でしばらくは落ち着くと思ったんだが、ガキが集まるのは止められないわな」
険しい表情で言って、それからさくにゃんに視線を戻す。
「トーヨコの亡霊、今日の機嫌はどうだった?」
笑顔のまま、うっすらとさくにゃんは目を細めてみせる。
「まあまあ、かな☆」
言って横をするりと通り抜け、「それじゃ、また☆」と一度振り返って告げると、さくにゃんは去って行くのだった
雷さんはそのうしろ姿を見送り、それから
「行くぞ」
と、見惚れる二人を促し歩き出す。
通りの街灯には明かりが灯り、街はいよいよ目覚めてゆきます――。
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