閑話休題 さくにゃん☆らでぃお


 ☆カワイイ☆ は日々の努力で創られる――ので、さくにゃんはバイトのない日はアパートの自室でメイク研究などを嗜むのでした。


〝アイシャドウは薄目が好みだけど、たまには濃くしてもいいかな?〟

〝釣り目がちな目の角をごまかすように、アイラインは強めに引いて〟

〝睫毛の緩めのカーブ、最初は作るのタイヘンだったけどもう慣れたっ!〟

〝いつもは薄めのリップ、だけど今日は赤めの強いので〟


「――うみゅ、いい感じ☆」


 ベッドに棚、テーブルは白かピンク。カーテンやかけてある服も同じ色合いで、周りにはサン〇オのぬいぐるみがところ狭しと並んでいる。

 お似合いなファンシー☆ に囲まれた部屋で新メイクを終えたさくにゃんは、いそいそとコスメを片付ける。ライバーでもあるさくにゃん。本日は配信日なのだ。

 机の上にあるスマホ台の角度を合わせて置こうとしたところで、YOA〇OBIが奏でる着信が鳴った。


「――あ、右京くん☆」


 ゴキゲン顔でさくにゃんは電話に出る。これは配信よりも優先すべき事項だ。


「もし~☆ うん、今平気だヨ。右京くんは撮影終わったの?」


 ニコニコ笑顔のトークである。相手の橘右京くんは読モしている大学の先輩でイケメンくんだ。何しろイケメンくんです。イケメンくんなのである。


「うん、うん、明日? あ~何かサークルの新歓あるとかって聞いたケド、大丈夫だよ☆」


 優先すべき順位をさくっと即断してさくにゃんは答える。デートは最優先事項。絶対正義。や、トーゼンっしょ。


「りょーかい! じゃ、明日ねーバイバイ☆」


 通話を切りガッツポーズを決めると、さくにゃんはあらためてスマホを台に置いた。


「――こんばんにゃ~☆ ちょっと遅れちゃったかなっ? さくにゃん☆らでぃお、はっじっまるよ~☆」


 待機していた視聴者に告げて、毎週木曜午後八時放送(不定期・SNSで告知あり)『さくにゃん☆らでぃお』が幕を開ける。

 すぐに


〝待ってました!〟〝ギフト送るよ〟〝新メイクかわヨ〟〝今日の下着何色?〟


 など――愛あるコメントが流れてきた。

 このように、さくにゃんは日々乾いた毎日を地べたに這いつくばりながら送る連中に癒しを与えるためこの世に舞い降りた、まごうことなきエンジェル☆ なのである――!

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