その12:再会です!
私は集まっている人たちの横をこっそり通り抜けて、彼らの死角からお城の外壁をよじ登る。
ちょっとお行儀が悪いけれど、一刻も早く魔王様に会いたかった。
2階部分まで上がり、バルコニーに顔を出してそこに居る魔王様を呼べば、3つの赤い瞳がこちらを向く。
「ただいま戻りました、魔王様!」
手すりを越えて、きちんと立ち、改めてご挨拶。
ゆっくりお辞儀を……したいところだけれど、私は我慢できずに魔王様へと駆け寄る。
「魔王様は帰れてたんですね! 良かったです! 私たちが使おうとした時にはなんかゲートが閉まっちゃってて、だからラスキス様の人間の恋人さんに協力してもらって帰って来たんです! あ、それでラスキス様なんですけど、婚約解消したいらしいです! 恋人さんも人間界からついて来てくれてて、たぶん今その辺にいるのでまた後でお話すると良いと思います!」
「……待て。情報の処理が追い付かない。どういうことだ」
無意識に詰め寄ってしまっていたのを、魔王様にやんわりと押し返される。
おっといけない、側近たるもの正確に事の経緯をお伝えしなければ。
私は魔王様から少し離れ、咳払いをする。
「えーっと、時系列順にお話しするとですね……」
と、言いかけた直後、下の方から大きな声が飛んで来た。
「クィンテだ! あいつ、魔王を助ける気だぞ!」
「デカ女め、人間の分際で……!」
誰が言ったかまではわからないが、少なくとも集まっている人たちの中から聞こえた。
ひょいと顔を出して見ると、更にあちこちから怒声が発せられる。
私は顔を戻して魔王様に問うた。
「あの……ところで皆さん、どうして怒ってるんですか? クーデターとか言ってましたけど」
「……俺が無能だからだ。何もかも上手くできずに不信を買って、この有り様だ」
「えっ!? 魔王様は有能ですよ!?」
思わず大きめの声が出る。
魔王様、いったい何を言い出すのだろうか。
一瞬、冗談かと思ったけれど、その暗い表情からして本気で言っているらしかった。
「ほら、この間も西の方であった洪水被害の復興支援してたじゃないですか! あそこの人たち、ちゃんと元通りの生活に戻れてますよ!」
私は慌てて反論する。
そう、あの洪水については本来1年以上の時間を要するはずだった復興が、魔王様が手を回したことにより半年でほぼ完了したのだ。
間違いなく魔王様の手腕によるものだし、これを有能と言わずして何と言うのか。
しかし依然、魔王様の様子は変わらない。
下に居る人たちを、ただ黙って、目を伏せて見つめている。
「魔王様……そんな悲しい顔して、どうしちゃったんですか? 私が居なくて寂しくなったんですか? それで気分が落ち込んで……?」
きっとそうだ。
3日も私に会えなかったのだから、気持ちが沈むのも当然だ。
魔王様とはぐれてしまい、魔界にも早く帰れなかったことが、申し訳なくて仕方がない。
けれども、いま私がすべきは謝罪ではない。
私は魔王様の手を握って、とびきりの笑顔を作った。
「元気出してください! 可愛い私はここに居ますよ! 素敵な魔王様の、素敵な側近です!」
「クィンテ……」
赤い瞳が揺れる。
ひんやりとした手が、私の手を緩く握り返した。
さて、これで一件落着……となれば良いけれど、現実はまだそれを許さない。
集まっている人たちの怒り様は、収まる兆しすら見えないままだ。
恐らく、何かの行き違いがあったことは確実。
そうするとまずは彼らに落ち着いて、話を聞いてもらう必要があるのだけれど――。
「クィンテを捕まえろ!」
「あいつも同罪だ!」
私が考え込んでいると、そんな叫び声と共に魔法やら何やらが飛んで来た。
いつの間にか、私の方に怒りが集中していたらしい。
「わわっ! ま、魔王様!」
これが私に当たったところで、まあ多少は大丈夫だけれど、万が一にも魔王様に流れ弾が当たってはいけない。
私は咄嗟に前に出て、盾になろうとする。
だが次の瞬間。
視界を覆う飛来物たちは、一斉に動きを止めた。
「え……?」
驚いて、ぐるりと見回す。
炎、矢、石、氷、刃物……1つ残らず、弧を描いている途中の位置でぴたりと固まっていた。
「やめろ」
不意に、魔王様が口を開く。
それからゆっくりと地面を蹴り、翼を広げて静かに宙に浮いた。
「俺に対する不満、苦情はいくらでも受け付ける。だが他の者を傷付けることは許可しない」
魔王様が右手をグッと握れば、止まっていた物が風船みたいに呆気なく割れ、粉々に砕け散る。
私も、集まった人たちも、みんな唖然としていた。
「武器を収めろ。全員、黙して俺の言葉を聴け」
自然と、誰もが跪く。
目の前のこの人が魔界の王なのだと、誰もが理解せざるを得なかった。
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