その9:問題解決です!

「わかりました、ラスキス様! 私も協力します!」


「はい?」


 私はラスキス様の手を握る。

 彼女に悲しい顔はさせたくなかった。


「魔界の皆さんを説得しましょう! そして婚約を解消してもらうんです!」


「ちょ、ちょっと……お待ちなさいな!」


 私の手を振り払い、ラスキス様は言う。


「そんなこと、できるわけがございませんわ。それに貴女、他人のことを気にしている場合ですの?」


「?」


 何のことかわからない。

 ……という気持ちが顔に出ていたのか、私はラスキス様に盛大に溜め息を吐かれた。


「気付いていませんのね。貴女、あの方に捨てられたんですのよ!」


 ビシッとラスキス様は私を指差す。


「甘い言葉で誘い出し、遠くへ連れて行って置き去りにする。貴女の生い立ちは存じておりますわ。このやり口には、覚えがあるのでは?」


 連れて来て、置いていく。

 ……知っている。

 それは私の両親が、私を捨てた時のやり方だ。


 私が当時のことを思い出してちょっと暗い気持ちになっていると、ラスキス様は更に続けた。


「あの方は常日頃から、無知な貴女を弄んでいましたわ。魔族ばかりの環境で悪目立ちすれば危うくなるのは貴女の身だというのに、自分勝手に贔屓をして傍に置いて……」


 拳を握りしめて熱弁するラスキス様。

 ぷるぷると肩が震えている。


「そのくせ結婚が近付いて来たら、邪魔になる貴女をあっさり捨てる。しかも身寄りも何も確保してあげないままに! 貴女はあの仕事ができるだけの冷血漢に振り回された挙句、打ち捨てられたのですわ!」


 ラスキス様は怒りをあらわにしてまくし立てた、が。


「いや、それは無いですよラスキス様」


 私は特に考える必要も無いので、即答する。


「だって私は可愛くてデキる側近ですし、魔王様のこともたくさん知っていますし、捨てられる理由がありません」


 心配してもらえるのは有り難いけれど、間違いは間違いである。


 というかやはり、ラスキス様も誤解している側の人みたいだ。

 もしかして、1回「魔王様の魅力を再認識しましょうの会」とかやった方が良いのだろうか?


「まあ、というわけで! とりあえずラスキス様の問題を何とかしましょう! 恋人さんとの待ち合わせはいつですか?」


「ゆ、夕暮れ時ですわ。空が赤くなる頃にあの時計台の下で、と」


「それじゃあ、もうすぐですね……」


 太陽は既に傾き始めている。

 魔界に戻っている時間は無さそうだ。


「よし! ではまず恋人さんとお話しをしに行きましょうか!」


「でも……そう上手くいきますかしら……」


「大丈夫ですって! 絶対!」


 私はラスキス様の手をしっかりと握り、歩き出した。


 目指すは時計台。

 デキる側近の、腕の見せ所である。



***



「そうだったのか、ラスキス……!」


「ごめんなさい……今まで隠していて……」


「良いんだ! 打ち明けてくれてありがとう。僕はいつまでもどこまでも、君の味方だからね!」


 橙色に染まる景色の中、抱き合う影が2つ。

 言わずもがなラスキス様と恋人さんだ。


 私が見守る前で恋人さんと合流したラスキス様は、婚約のことを告白した。

 そして恋人さんは驚いた様子こと見せたが、彼女のことを見事受け止めたのだ。


 うーん、私の出る幕が無いくらいに素敵な顛末。

 とんとん拍子のハッピーな展開だ。


 手を取り合い、愛を確かめ合う2人を、私はニコニコと眺める。


「クィンテさん、どうもありがとうございます。貴女が背中を押してくれたおかげですわ」


「僕からもお礼を言うよ。ありがとう」


「いえいえ! おちゃのこさいさいです!」


 ラスキス様はすっかり元気になったみたいだし、恋人さんも幸せそうで何よりだ。


「次は魔界の人たちの説得ですね! さっそく向かいましょう!」


「ええ。ここまで来たなら、何も恐れるものはございませんわ!」


 私たち3人は急ぎ、私と魔王様が使ったゲートのある丘へと向かう。


 しかし、私たちを待っていたのは、固く閉ざされたゲートだった。


 ゲートは人間界側からは魔力の揺らぎとしか感じられず、目には見えないのだが、魔族であるなら操作ができる。

 ……はずなのに、ラスキス様が開けようとしてもそれを全く受け付けないのだ。


「ど、どうしましょう!? 故障したんですかね!?」


「落ち着きなさいな。これは……」


 ラスキス様は改めて、ゲートまじまじと見た。


「あちら側から錠がされていますわね。仕方ありません、私が使用したゲートまで移動しましょう」


 空が暗くなる中、私たちは街を横切ってとある林の中へ。

 けれどそこにあるゲートも、作動しなかった。


「うわわ、なんでこっちも……!」


「……やはり、魔王様は……こほん。しかし、弱りましたわね。これでは帰ることができませんわ」


 頭を抱える私とラスキス様。

 そこへ、恋人さんが歩み出た。


「ちょっと僕に見せてくれるかい」


「? はい、どうぞ」


 彼はゲート、というよりその魔力を慎重に観察する。

 しゃがみ込んで顔を近付けたり、手を添えたり。


 しばらくそうした後、彼は私たちの方を振り返った。


「これ、時間はかかるけど……こじ開けられるかも!」

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