その4:偉い人の会議です!
「ではこれより、魔王軍上層部定例会議を始めます!」
定刻になったのを確認して、私は元気よく号令をかける。
会議室中央の大きな長方形の机に着いているのは、魔王様と4人の幹部さんたち。
いわゆるお誕生席に魔王様が座って、残る人たちが2人ずつ左右の辺に並ぶという形である。
ちなみに私は魔王様のお傍に立っている。
側近の定位置だ。
サイドテーブルに持って来た資料たちを置き、手元の進行表を見ながら私は言う。
「魔王様に直接ご意見できる良い機会なので、ぜひ遠慮なく発言してください。まず炎部隊さんからどうぞ!」
最初に指名したのは、右手前に座る赤髪の男性。
四角い眼鏡と立派な2本の角が特徴的な彼は、魔王軍の炎系戦闘員を率いる隊長さんだ。
眼鏡の真ん中をくいっと押し上げ、彼は口を開く。
「部隊の物資が足りていません。特に食料」
炎部隊長さんの目付きは鋭い。
キリッと吊り上がった目と眉は、彼の芯の強さを象徴しているかのようだ。
「我々が各地に遠征をして凶暴な魔物の捕獲、および調教を行い、軍全体に戦力を提供していることはご存知でしょう。この重要な役割を滞りなく果たすために、十分な食料の供給を要求します。具体的には――」
前置きを終えた彼は、遠征の実態、部下からの声、仕事の進捗……それらを事細かに説明していく。
時おり資料やデータの確認を求められるので、私は素早く該当するものを探してその通りにする。
会議のサポートもまた、側近の役割だ。
「――以上です」
「はい、ありがとうございました! 次、氷部隊さんお願いします!」
今度は大人っぽい三つ編みが素敵な、すらっとした体型の女性に鉢を回す。
彼女は、主に魔界の北エリアで要所を守る氷部隊の隊長だ。
「あたくしの部隊自体は特に問題ありません。ですが北方統括局があたくしたちに圧力をかけてきておりますから、魔王様の方から牽制をし返してほしいのです」
「わあ、それは大変ですね……」
思わず私がそう零すと、氷部隊長さんはジロリとこちらを睨んでくる。
しまった、これは良くない側近。
私は慌てて口を閉じた。
「こほん。つきましては、実際に統括局から行われた――」
先ほど同様、資料を使っての報告と意見がなされる。
やっぱり政治って大変なんだなあ。
私は魔王様の側近という凄い役職についてるけれど、権力は無いし政治に詳しくもない。
だからこうやって、対外関係とかに頭を使って頑張ってる人を見ると尊敬の念がこみ上げてくる。
「――以上、よろしくお願いします」
「ありがとうございました! 続いて土部隊さん、ご意見を!」
3人目は、太い尻尾とムキムキの筋肉が見るからに強そうな男性。
魔王城と周辺地域の警備を担当する土部隊の隊長さんだ。
彼は太い眉をぎゅっと寄せ、声を上げる。
「うちの部隊、人手が足りてません。入隊希望者は毎年減ってるし、入っても辞めてく腰抜けばっかです。どうにか手を打ってくれませんかね?」
どうやらこちらは人員数に問題を抱えているらしい。
指示されるまま記録を確認していくと、確かに現時点で、土部隊の人数は他の部隊より3割くらい少ない。
「以上です。よろしく頼みますよ」
「ありがとうございました! では最後に風部隊さん!」
残る1人、ふわふわの黒髪に猫っぽい耳を生やした小柄な青年へと、私は視線を向ける。
彼率いる風部隊は、主に諜報活動を任せられている集団だ。
風部隊長さんは少しの間、じっと魔王様を見つめる。
それから重々しく口を開いた。
「……前回、前々回に引き続きですが。人間界への侵攻を提言します」
ぴく、と魔王様の眉がちょっぴり動く。
特に返事が無いので、風隊長さんは言葉を続けた。
「魔界と人間界はこれまで幾度となく争ってきました。130年前の戦争以降は一応平和な状態が保たれていますが、いつまた争いが起こるかわかったものではありません。それに噂によれば、人間たちは『勇者』なる優秀な戦士を立てて魔界を攻撃する準備をしているとか……」
言いながら、私の方をちらりと見る彼。
なんだろう……そんな目をされても意見とか何も言えないんですけど……。
「魔王様、先手を取られてはなりません。やられる前にやるのです!」
風隊長さんはガタッと立ち上がる。
と、他の方たちも次々に起立し始めた。
「僕も賛成です。今度こそ、人間に完全勝利するべきです!」
「あたくしもそう思います。攻撃を受ければ、市民への被害も免れません」
「ワシもだ。因縁に決着を! 魔王様!」
「わわ、皆さんいったん落ち着いて!」
私はすぐさま待ったをかける。
積極的に意見を言ってもらえるのは良いけれど、ここはあくまで大事な会議の場。
無秩序な発言はNGである。
「魔王様、どうですか?」
皆さんが黙った隙に、魔王様へとパス。
すると魔王様は、至極落ち着いた様子で言った。
「……各意見、検討しておく」
端的な回答。
さすがだ。
あと伏し目気味な表情がクールでカッコいい。
「他に言いたいことはあるか」
「…………」
返答は無い。
「では会議を終了する。ご苦労だった」
魔王様はそう告げて、隊長さんたちに退室を促した。
私は広げた資料を整頓し、一方隊長さんたちは粛々と会議室を出て行く。
ほどなく、室内に居るのは私と魔王様だけになった。
「クィンテ。俺はここで少し施策案を練る。次の予定の準備をしておけ」
「はい!」
会議が終わっても、仕事はまだまだ終わらない。
資料を抱え、私は会議室を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます