第4話 星空と足湯と君との約束

④旅館の足湯 (夜)



 午後九時。

 主人公は響乃と二人で足湯へとやってきた。


 SE:足湯に入る音


「んんー……っ(伸びをする声)」


「ふうっ。気持ち良いね、お兄ちゃん」


「星空も綺麗だし、夜風も心地良い……」


 主人公、響乃をまじまじと見つめる。


「ん、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」


「綺麗だなと思って……? それは星空が? 浴衣が? それとも…………なっ、何でもない(照れながら)」


「全部……って、どういうこと?」


「星空も、浴衣も……わっ、私も? そっかそっか、へえぇ(嬉しそうに)」


 SE:パシャパシャと足を動かす音


「あ、子供っぽいって思ったでしょ。足パシャパシャさせるの」


「可愛いよ……って、そっか。なら良かった。……いや、子供っぽいって意味かも知れないけど」


 主人公、おもむろにスマートフォンを取り出す。


「ん、何々?」


 SE:カシャッ(写真を撮る音)


「わっ、急に撮らないでよ。……私、変な顔で写ってない?」


「大丈夫? なら良いけど」


 主人公、撮った写真を響乃に見せる。


「おー、確かに良い感じに撮れてるね。足湯もライトアップされてるし、何かエモい感じだ」


「ん、なぁに?」


「大切な思い出だから形に残したかった……? そっか。えへへ、嬉しいな」


「あっ、じゃあせっかくだしツーショットでも撮る?」


 主人公、少し悩んでから首を横に振る。


「それは恥ずかしい……って、今まで膝枕とかしてきたのに?」


「それとこれとは話が別? まぁ、確かに気持ちはわかるけど。自分の照れてる顔とか見たくないもんね」


「でもお兄ちゃんだけじゃズルいから、私も撮っちゃお」


 SE:カシャッ(写真を撮る音)


「あっ、ビックリしてる顔が撮れた。よしよし(満足そうに)」


「ツーショットはまたいつか撮れば良いよね(ぼそっと)」


「そうだねって、今のは独り言だったのに……馬鹿」


「いや……別にしないとは言ってないよ。いつか一緒に撮ろうね」


「うん、約束」


 主人公と響乃、指切りをする。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「これからは普通に教室で話しかけても良いんだよね?」


「そんなの当たり前って? そっか、ありがとう。嬉しいな……(囁くように)」


「いきなり私達が仲良くなってたら、クラスの皆がビックリしちゃうかな?」


「だからって遠慮はしたくない、か……。そうだね。お兄ちゃんとは高校で疎遠になっちゃって、仕方ないって一度は諦めたけど……」


「こうやって再会して、やっぱり仲良くなりたかったんだって気付けたから」


「それにしては積極的すぎたって? それはお兄ちゃんも同じでしょ。……ほら、こうしてお兄ちゃんの足を蹴るくらい余裕なんだから」


 SE:パシャパシャと足を動かす音


「ありがとうございますって、何だそりゃ。それは流石にちょっと気持ち悪い……かもよ?」


「ふふっ、冗談だよ。何か楽しすぎるよね、この空間」


「……ホント、もうすぐ終わっちゃうのが寂しいくらい(小声で)」


「え? 違うよって、何が……?」


「終わるんじゃなくてこれから始まる……。そっか。うん、確かにそうかもね(嬉しそうに)」


「僕も頑張るから……うん、ありがとう。私ももう、逃げないよ」


「あ、そうだ。お兄ちゃんって学校でのお昼ご飯は何を食べてるの?」


「購買のパンがほとんど……なるほどね。お兄ちゃんはパンが好きなの?」


「そういう訳じゃない? むしろご飯派? なるほどなるほどぉ(企むように)」


「私さ、いつもお弁当なんだよね」


「ううん。お母さんじゃなくて、自分で作ったお弁当」


「私、こう見えて料理好きなんだよ。ビックリした?」


 主人公、コクコクと頷く。


「ふふん、どうだ参ったか」


「……って、別に自慢したい訳じゃなくて」


「お兄ちゃんさえ良かったら、さ。お兄ちゃんの分のお弁当も作ってみたいなーって思うんだけど……どう、かな?(恐る恐るといった様子で)」


「喜んで? やった(ガッツポーズをしながら)」


「あ、でも流石に毎日じゃないよ? 私、いつもは友達とお昼ご飯食べてるから。友達との時間も大切にしたいんだよね」


「中学の頃はさ、すっごく仲の良い友達っていなかったんだよ。上っ面の友達ばっかり。……高校生になって、やっと大切な友達が見つけられたんだよね」


「……うん。お兄ちゃんもそうだよね。リラックスして友達と話してる姿、よく見るもん」


「大切なものができたから、大切な君を手放そうとしてた。……でも、大切なものってたくさんあっても良いんだね。そんな当たり前のことにやっと気付けたよ」


「でも…………大切な男の子は君だけだけど(小声で)」


「聞こえてるって? えー、何のことかわからないなー(棒読みで)」


 主人公、響乃の手を取る。


「えっ、お兄ちゃん……急にどうしたの? 手を握ってくるの、これで二度目だね?」


「もしかして、もう……? あわわちょっと心の準備が……」


 主人公、静かに首を横に振る。


「違う? じゃあ……何?(囁くように)」


「いつかデートに誘うから、その時に想いを聞いて欲しい……」


「……うん、わかったよ。これも約束。ね?」


 主人公と響乃、指切りをする。


「はあぁ……(背伸びをしながら)」


「ここでお兄ちゃんと出会えて良かったな……。ほんっとうに良かった」


「ジェットコースターみたいな一日だったし、顔も熱いけど……。でも、これで終わりじゃないんだもんね」


「うん。また学校でね、お兄ちゃん。……いや、学校では名前で呼んでみようかな」


 主人公、足湯から出ようとする。


「あっ、ちょっと待って」


「……今はまだ、頬っぺたにしておくね」


 響乃、主人公の右頬にキスをする。


「ふふっ、驚いてる。駄目だった?」


 主人公、困りながらも首を横に振る。


「駄目じゃない? 良かった。……お兄ちゃんだけじゃなくて、私も頑張りたいって思っちゃったんだよね。えへへ」


「続きはまた学校でね、お兄ちゃん」



〈終〉

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温泉旅館で二人きり ~家族旅行中に出会ったのはクラスメイトの君でした~ 傘木咲華 @kasakki_

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