第4話 カップヌードル
私の味方。みんなの味方。
塩分の高さにはそっと目をそらして、戸棚から買い置きの見慣れたカップを取り出す。
コンロの上で熱せられたやかんがシュンシュンと音を立て始めるまでは、ごろごろと。昔は底に貼ってあったシールも今は無くなってしまったね。
フィルムに爪を立てて、ブツッ。ピンと弛み無く張られたフィルムを破る瞬間というのはちょっとした背徳感。綺麗なものを乱す悪戯をする感覚に似ているのだろう。
破れたところから無造作に剥がす。どういうわけか、途中で千切れてしまって一回でするんと剥けてくれない。やかんのお湯がぐらぐらと沸騰して、白い湯気がもうもうと立ち上るが焦らない。焦っても良いことはない。
綺麗にフィルムを剥がし、否、脱がしたら、カップを抑えて蓋のつまみを引っ張り上げる。熱で封じられた蓋の内側に充満していた粉末スープのアロマが、ぷつっとめくれ上がった途端にふわっと立ち上る。
うーん…このままかじってもいい?駄目です。
熱々のお湯を注ぐと、じゅんじゅんと麺の間に染み渡って、やがて温泉のように滲み出す。具材の偏りを軽く均してひたひたにしたら、ぺろんと捲れ上がった蓋を戻して小皿をひっくり返して蓋をする。
初めてこれを食べたのは何歳のときだったのだろう。大人になった私は、この匂いを嗅ぐと色も形もハッキリ脳裏にイメージできる。
勤め先の休憩室で、家で、時にコンビニの前で、この香ばしくて少ししょっぱそうなスープのにおいがすると、頭の真ん中のほうが突かれる気がする。
大雑把なので、大体3分経ったかなと時計を見て蓋を開ける。たまに、蓋が熱くてやけどしそうになるのだが、お腹が空いているときはそんな危険性は忘れてしまっているので。今日も案の定、ちょっと熱かった。
わかりきっていたことだが、いい香りと熱気がダイレクトに顔に浴びせられる。
これは、まだ熱くて食べられないやつに違いない。
しかし私はもうお腹が空いているのである。
わざとお湯を少なめに入れておいたカップの中へ氷をゴロゴロ。下まで行き渡るように混ぜっ返す。箸にはフライド麺独特の弱いコシの手応え。白い麺の中に埋もれる卵や謎肉。
氷が溶けてきたら、麺を箸で持ち上げて唇でちょんちょんと温度確認。よし、いけるぞ。
ズゾッ。
周りにスープをハネさせないように、麺を押さえながら、短く、かつ豪快に麺をすする。
啜る音は長く伸びてはいけない。短く、一口分ずつ。
醤油ラーメンとも違う、カップヌードルのスープ。もちろん謎肉もおいしいのだけど、スープを吸った卵が好きだ。
ズズッ!
最初は麺で埋め尽くされていたカップの水面に、赤銅色のスープが覗く。
沈んでしまった具を救出したら、名残惜しいが残ったスープには別れを告げよう。シンクを傷めないように、カップに水を注いでから捨てるのだ。
はー…。
ごちそうさまでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます