第3話 手作りミートソースのスパゲッティ
レトルトのミートソースに足りないもの。
それは具材の量だと思う。
というわけで、ひき肉、にんじん、たまねぎ、乾燥にんにく、トマト缶を用意。
ひき肉は片面焦げ目がつくまでを目指してフライパンにパックから直にイン!
乱暴に扱われたフライパン殿からバコンと抗議のような音。ごめんて。
そうだ、料理をする時にレシピ本ではわからない大事な要素がある。匂い、だ。
火加減、時間、色が変わったらと色々な目安が書いてあるが、実際にキッチンに立つと1番の目安はにおいであると思う。
ひき肉はにおいでどれぐらいおいしいか、見当がつく。何と言えばいいだろう。おいしいひき肉って、肉のにおいなんだけど臭くはないのだ。スーパーが複数あったら、ひき肉が一番味の違いが出るように思う。
フライパンに入れたひき肉はしばらく動かさずに、耳を澄まし、においをチェックしながら野菜を切る。
水分が蒸発し、脂が溶け出してパチパチ爆ぜる音がだんだん落ち着いたものになっていく。
つまみ食いしたいけど野菜を切らなくてはいけない。
包丁の切れ味は良いほうが安全。余計な力を入れずにトントントンと切れる。
包丁の使い方はまだまだなのだが、刃物屋のご主人が自らが鍛えたという自慢の包丁のお陰で調子は良い。
人参と玉ねぎをみじん切り。トントントントン トントントン。
本当はひき肉と同じぐらいの粒感に揃うように切れたら良いだろう。しかし現実はそう思いどおりにはいかない。仕方ない。正方形の野菜がないのだから、切ったものだって正方形にならないのだ。
ひき肉のフライパンとは別のフライパンに油を入れて火を付ける。みじん切りの野菜たちよ、熱せられたフライパンの上へ落ちるが良い。
刻まれて、焼かれるなんて。なんてひどい拷問だろうか。100度を超えただろう油に触れて野菜の水分が悲鳴を上げた。
今日は野菜の食感よりも香りを出したいのと、ソースと一体化させたいので強火で炒めていく。まだ玉ねぎからは辛そうな香りしかしない。
そこにもっと細かく刻んだにんにく(水で戻した)も投下。最初はにんにくの香りだけが「私ここにいます!」と強く主張する。
正直君は強いよにんにく…食が進むね。
でもソースは協調性が必要な食べ物だからね。そんなことを思いながらよくかき混ぜて野菜全体に火を通す。
玉ねぎやにんじんの形を支えてきた細胞膜が熱で壊され、中のエキスが溶け出して甘みを生む。こうなるとフライパンから立ち上る香りが一体になってくる。そうしたら焼いた肉と、トマト缶を加えよう。
ジュワワワワァー!と悲鳴再び。
味の調整に、横着してコンソメスープやウスターソースを入れつつ、ふと横を見ると水煮のマッシュルームを発見。
これが運命か……。お前もミートソースになるんだよ!
肉と野菜、グツグツ煮立ったトマトのにおい立ち上るフライパンへ、中の煮汁ごとマッシュルームを透過した。
最初はびしょびしょに汁っぽかったソースが、煮詰められてもったりとしていく。かき混ぜる手に重さが伝わってくるのだ。
味を見て微調整。スパゲッティに塩気がつくのだからこれ以上の塩分は要らないだろう。
ダマにならない小麦粉をふりかけて、とろみ付け。麺に絡んでこそのソースなのである。
さて、これから肝心のスパゲッティを茹でなくてはならない。
温かいスパゲッテイの上に好きなだけのせたミートソース。肉と野菜のメイラード反応をトマトの旨味に溶け込ませて、香ばしい香りとトマトの酸味がふわあっと立ち上る。今日は粉チーズなしで。味見はしたけどつまみ食いをしていないのでお腹も空いた。
いただきます。
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