39話: 勇者の失踪

 ハレ討伐から三日。

 その間、犠牲となった十名の葬儀が粛々と行われ、大量のモンスターの死骸から素材を回収する作業も概ね完了した。

 スタンピードの対応に大量の人員と物資を導入したが、被害が少なかったことと、回収した膨大な素材の恩恵で損益はトントン。通常なら大変な損害が生まれるスタンピードにおいて、不幸中の幸いである。

 事の原因となった冒険者パーティ白銀の騎士団・・・・・・は、四人とも冒険者資格を剥奪され、身柄はしばらくの間アルバの冒険者ギルド預かりとなった。

 聖剣を砕いたロンの行動は不問。ギルドから信頼の厚いプリシラの進言のおかげである。

 そして、ハレを討伐したアホウドリの四人は、街を挙げて盛大に祝福される……はずだったのだが、

「いない⁉」

「あぁ。今朝彼らの宿に遣いを送ったのじゃが、もぬけの殻じゃった」

逃げた。

 アルバのギルドマスター室。そこでシャギーからアホウドリ失踪の報告を受け、プリシラは疑問符をまき散らす。

「彼らからの置き手紙じゃ」

 そう言って、一枚の紙きれを差し出すシャギー。

 封筒になど入っていない紙ぴら一枚のやっつけ仕事だが、それだけに彼ら本人が書いたものだとすぐ分かった。

「えっと、『もう祝われるのはこりごりなんで逃げます。そもそも俺たち、アルバの冒険者登録忘れてたから、厳密には違法狩猟なんだよな。だから手柄は全部プリシラたちに譲る。あとは任せた』ね。相変わらず……って、あれ? これって……」

「どうした?」

「いえ……この手紙、お預かりしても?」

「殆どおぬし宛のようなものじゃ。好きにしなさい」

 目に見える・・・・・手紙の内容はいかにもといったものだった。

 セラの勇者祭でトラウマになっているのだろう。巡り巡って、また大事件につながるのではないかと恐れても無理はない。

「それにしても、まったくあの人たちは……。冒険者登録していなかったのもきっと、忘れてたんじゃなくてわざとですよ。この状況を見越して」

「確かに冒険者登録はしておらんかったが、今回ボス討伐が行われたのはダンジョンの外。それも街外の砂漠じゃ。規約の解釈によっては管轄外と言える。そうなれば、街を救ってくれた英雄として堂々と労えると考えておったんじゃが……」

「先を越されましたね。まさかあの重傷で動けるなんて」

「彼らを連れ戻すというのは?」

「無理でしょうね。本当に彼らを労おうと思ったら、騒がずもてはやさず、何か面白いものを贈るくらいがいいのでしょう。ギルドのメンツとしては問題ですが」

 プリシラは呆れ気味にため息をつきつつも、僅かに口端を緩ませる。

 スタンピードを乗り越えた安堵からか、アホウドリらしい行動を愉快に感じ始めたのか。

「なんにせよ、アルバの勇者パーティは引き続き夕凪ということになる。これからも頼むぞ」

「はい。全員の怪我が回復し次第、百一階層の様子を見に行くつもりです。転移クリスタルの回収もしなければいけませんし」

「五つの街全体でも、史上初の百一階層か。気を付けての」

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