32話:負けイベ攻略
「いやだね」
同じ意見だったはずのロンは、それを一蹴した。
「俺らは負けイベ攻略に来たんだよ」
そう。もともと乗り気でなかったアホウドリが全速力でここに来た理由。それはハレの不死属性を聞き、そのチート能力を攻略したくなったからだ。
たとえそれが、最善の行動でなくとも。
「何を言ってるの⁉ 無理よ! 私の概念魔法ですら効かなかったのよ⁉」
「……それは本当か?」
「えぇ」
「だとしたら、向こうも概念魔法に準ずる存在の可能性が高いな」
ロンは顎に手をやって、プリシラの情報を加味する。
その間二発砲撃が撃ち込まれたが、いずれもリシャがバリアで防いだ。
「あんたは何色だ? 何の概念を試した?」
「赤よ。
「だけか?」
「えぇ、それしか使えないの」
「なるほどな」
炎の赤しか扱えないからと言って、使えねぇだの役立たずだのと責めたりはしない。概念魔法の習得が難しいことはロンもよく知っている。
「ロン、何か思いついた?」
「い~や全く。ロンさん困っちゃうぜ」
とはいえ、多少情報は増えたが攻略にはまだ足りない。
ロンは少しでも集中力を上げるために、リシャの帽子のとんがった部分で手遊びする。
「みんな、治療終わったよ。応急処置だけど、命に別状はないと思う」
「本当⁉ ありがとう」
そこに、マスクルの手当てを終えたフリンテが合流した。
ひとまず仲間が助かったことにプリシラはほっとし、フリンテに礼を言う。
その間にも、また砲撃が撃ち込まれた。
巻き起こる暴風と砂塵。リシャのバリアはびくともしないが、いつまでもつかは分からない。
「準備できたんなら、さッさと始めようぜェ」
黙って待っていたナキが、フリンテが立ち上がったのを見て口を開く。
待機させられて飽き飽きしていたのだろう。今にもあくびしそうだ。
「ああ、反撃開始だ。みんな集まれ」
「「「あ~い」」」
ロンの呼びかけで円陣を組む四人。
「何か策があるの?」
それを見たプリシラは作戦会議か何かだと思ったのだろう。期待半分といった表情でその集まりを見守る。
プリシラたちの手札では、ハレに対して有効な対策を生み出せなかった。アホウドリがその手段を持っているのかは定かではないが、少なくともリシャの防御がある。
――このパーティ、少なくとも守りに関してはハレに対抗できてる。有効な攻撃手段も持っているかもしれない。いったいどんな作戦を……
「「「「ポジションどーこだ!!」」」」
「……え?」
しかしてそれは作戦会議などではなく、アホウドリ恒例の、ポジション決めくじ引き大会だった。
結果
ロン→前衛
リシャ→前衛
ナキ→前衛
フリンテ→前衛
「あ、終わった」
「みんな、ごめん」
「珍しいなあおィ」
「短い人生だったよおおぉ!」
なんと
なにが一番まずいかと言うと、リシャが前衛というその配置だ。仮にナキが後衛に下がるとなったらそれはまだいい方である。ナキの分の戦力がゼロになるだけだからだ。
ところが、リシャが前衛に上がった場合はゼロを通り越してマイナス。フィジカルがクソザコナメクジなリシャは、敵前に突っ立っておくことしかできないのだ。
そして今回、全員が前衛。
熟練の前衛冒険者で組んだとしても、四人で前衛というのはお互いが邪魔になって連携が取りにくい。
さらに言うと今回の相手は人間サイズ。黒龍のように巨大ならまだいいものの、小型の敵近くにぼっ立ちされると邪魔で邪魔で仕方がない。
さらにさらに言うとまともに対策が練れない。難敵との戦闘では、ロンかリシャどちらか余裕のある方が相手を分析することが多い。言ってしまえば、後衛になった方が相手を分析し打開策を練るのだ。そのアホウドリの脳とも言える二人が前衛に出てしまうと、脊髄くらいの性能に下がってしまうだろう。
「まッ、なッちまッたもんは仕方ねェだろ」
「無理むりむりむりいい!」
そんな状況でも慌てない(慌てられるほど状況を理解していない)ナキと、阿鼻叫喚のフリンテ。
恐ろしくマイペースなアホウドリ一行を見て、プリシラたちは混乱する。
「えっと、一体何が……」
「あ~。とりあえずお前ら下がっといてくれるか? たぶん庇う余裕なくなるから」
「でも……いや、わかったわ」
ハレを注視するロンの集中力を垣間見て、プリシラは食い下がるのをやめた。
情報を伝えようかとも思ったが、すでに十発近い砲撃を受け止めているリシャ達には不要だと感じたのだ。代わりに、他の冒険者を引き連れて離れた場所へ連れていく。
「んじゃあとりあえず、全員でリシャのカバーしながら撹乱するぞ」
全員の準備が出来たことを確認してから、ロンが指示を出した。
「リョーかい。撹乱だな」
ナキは指示を一つしか覚えられないため、
しかし、ここでリシャが思わぬことを申し出る。
「大丈夫。妙案を思いついたから、カバーはいらない」
「「なに⁉」」
前衛適正皆無のリシャが思いついた
つまり、
「リシャ、大人しく守られてよ!」
とんでもない方法である。
しかしフリンテのそんな嘆願むなしく、リシャは無言で一歩前に出て、行動を始めた。
自分が出したバリアに手を触れ何やらぽつぽつと唱えると、その水色に透き通る障壁がくにゃりと形を変え始める。まるでガラス板を熱して捻じ曲げるように。
それはリシャを囲むように幾何学的な形を取り始め、最終的には六角柱へ。先端は六角錐状に尖って閉じ、完全にリシャを密閉する。
自身の身体を完璧に囲う、堅牢なバリア。そう、これは、
「ふっ。これで私は防御タンク」
「「「一人だけ安全圏に逃げてんじゃねええ!!」」」
彼女を完全に守る、逆に言えば他を守らないただの置き盾である。
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