20話:無謀オブ無謀

 アルバは周囲一帯を砂漠に囲まれた街で、当然のことながら最寄りのセラとの行き来にも砂漠を横断する必要がある。

 四日はかかるその道程は、ルートが確立された今も稀に死者が出るほどに危険なものだ。

 しかしそれは一般人だけで移動した場合。魔法使いや探索者シーフが同行すればその限りではない。砂嵐を防ぐ魔法を展開したり、鉄砲水等の危険な現象を事前に察知したりと、サポート職がいるだけで砂漠の危険度はぐっと下がり、移動ペースも上がる。

 故に砂漠を横断する際には冒険者を雇うことがほぼ必須となっているし、頻繁にアルバを出入りする商会等はお抱えの冒険者を有しているものだ。

「は~、やっと着いたあ」

「こんなに魔法使い続けたのは久しぶりだよ」

「盗賊もやたら襲ってくるし、大変だったね」

 イゼンたち元勇者パーティ白銀の騎士団・・・・・・は、そんな道のりをたった一日で踏破しアルバの街にたどり着いていた。

 旅団に一人魔法使いがいたところで、四日かかる道のりはせいぜい三日程度にしか縮まらない。その理由は非常に単純。魔力切れや体力切れの問題だ。どんな冒険者だろうと二十四時間魔法によるサポートが展開できるわけじゃない。

 ただし白銀の騎士団は違う。イゼンを除く三人娘全員が魔法使いであることを活かし、各種サポート魔法を交代で使い続けることによって、この圧倒的な旅路を実現したのだ。

 道中砂漠の盗賊にも何度か襲撃されたが、それはイゼンの戦闘力で追い払った。

 四人中三人が魔法使い職という極めて偏った編成ではあるが、今回はそれが功を奏した形である。

 とは言え体力の問題は残るわけで、余裕のある者が都度回復魔法をかけたところで、一日中移動をつづけた疲労は重くその足に絡みつく。

「みんなお疲れ様。今日はもう宿をとって、ここのギルドには明日登録に行こう」

 そんなパーティメンバーを労いつつ、イゼンが直近の方針を示した。

 四人がアルバに来るのは初めてではない。勇者時代、各種行事やら緊急招集やらで何度か訪れたことがある。

 そのため宿の場所などもよく知っており、疲れていてもスムーズに寝床を確保することができた。夕食については食いはぐれそうな時間になってしまったが。


  ◆


 ともあれその夜はしっかりと休み、翌朝。

 キューが寝坊しかけたり、イゼンが主人公ばりのラッキースケベをかましたりとハプニングはあったが、四人は無事にアルバの街のギルドへとやってきていた。

 ギルド建屋の大きさ自体はセラのそれとさほど変わらない。しかし砂嵐の多い環境のせいか、作りがいささか頑丈になっている。主に赤レンガなどの石材を使っているらしく、細かい砂が吹き込まぬよう窓やドアも隙間なく重厚な作りだ。

 そんな重い扉を開け、四人は入り口奥の受付へと足を運ぶ。

「おはようございます! 探索の申請ですか? クエストをお探しですか?」

 いくつかあるカウンター。そのうちの一つに立つ受付嬢がイゼンたちを見て声をかけた。右手で自分の正面を指し示しつつ、こちらにどうぞと言外に伝える。

 ミスメルとさほど変わらぬ歳の少女。

 街は違えど、この年頃の娘にとって受付嬢が花形職なのは共通である。

「この街への異動登録と、ついでに攻略申請もお願いしたいんだ」

「活動拠点の変更ですね。では、前の街で発行された登録証をご提示ください」

 ギルドという組織自体も共通であり、冒険者の身分を示す登録証も共通仕様。要は、国内であればどの街でも同じ登録証を使うことができるのだ。ただし、冒険者として活動するにはギルドによる異動登録は済ませないといけない。

 イゼンら四人はカード型の登録証を取り出し、受付嬢に差し出した。それらを一枚づつ確認した受付嬢は、途中あることに気付き顔を上げる。

「もしかして皆さん、セラの元勇者パーティの方々ですか?」

 問いかけながら、小首をかしげて見せる受付嬢。

 セラに新たな勇者パーティが誕生したことは既に全ての街に広まっており、今最もホットな話題となっている。そもそもの知名度もあるため、登録証を見てイゼンたちの正体に気付くことはおかしな話ではない。

「そうだよ。でも元とは言え、実力は負けていないつもりだ」

「でも、どうして急にアルバに異動されるんですか? セラにいたほうがいろいろやりやすいと思うんですけど……」

 勇者交代の噂が届いているとは言っても、さすがに決闘の話題までは広まっていないらしい。煽りではなく、受付嬢はあくまで純粋な疑問を口にした。

「なんというか、新しい勇者パーティから良く思われていないみたいでね。しばらくの間こっちで活動することにしたんだ。でも、いつかはセラに戻ろうと思ってるよ」

「そうなんですか」

 イゼンの口調に面倒そうな雰囲気を感じ取ったのか、受付嬢はそれ以上詮索しなかった。

 代わりに事務処理に注力し、手元の台帳や四人の登録証にいろいろと書き込んだり、小さな判を押したりしていく。

 その他にも、本人確認や注意事項の説明などがつらつらと行われた後、

「それでは、手続きはこれで終了です」

四人は晴れてアルバの冒険者となった。

「ありがとう。早速ダンジョンの攻略申請もしたいんだけど、いいかな」

「はい。大丈夫ですよ」

 イゼンはそのままの流れで攻略申請を依頼。面倒な手続きの後だが、受付嬢は嫌な顔一つせず了承する。

「じゃあ、百階層の攻略で登録してもらえるかな。期間は今日から三日間で」

「百階層って、アルバダンジョンの最深層じゃないですか! いきなりは無茶ですよ!」

 しかしその衝撃の内容に、さすがに異を唱えずにはいられなかった。

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