11話:挨拶バトル
「さあ皆さんお待たせしました! いよいよ新勇者パーティのご登場で~す!」
勇者祭が開始され、しばし前振りがされた後、ついに司会の少女がそう宣言した。
観客ですし詰めになった広場からは「うおおおぉ!!」と歓声が上がる。
これほどの人前で、フリンテとそう年も変わらないのに堂々と司会をこなす美少女。
勇者祭とあってはビジュアルも能力も妥協せず、適役を配置しているらしい。
「さあ上がってきていただきましょう! 新勇者パーティの、あ……ホウドリのみなさんで~す!」
流石のプロも、このパーティ名は赤面ものである。
「あほ?」
「アホウドリって言ったか?」
「いや、何か深い意味があるんじゃないか……?」
ざわざわ、ざわざわ。
拡声魔法によって司会の言葉は誤認なく観客の耳に届き、ざわめかせる。
そんなどよどよとした雰囲気の中、四人がステージ袖から階段を上がり始めた。
「なァんか思ッてたよりしけた反応だなァ」
「パーティ名のせい」
「めぐりめぐってお前のせいだぞナキ」
「おいおい、そりャいいがけッてもんだろ」
「言いがかりね?」
などと、雑談しながら登場する四人。
ロンはポケットに手を突っ込み、ナキは頭の後ろに手を組み、リシャにいたっては既にリンゴパイをほおばっている。まるで食べ歩きでもしているかのような態度だ。
唯一フリンテだけは、さすがにまずいと思って観客に手を振っていた。。
ファンサービスは冒険者の仕事の埒外。とは言え、ここまで素っ気ないのも珍しいだろう。
「あ、あれが勇者パーティか……」
「なんてアウトローなんだ」
「やっぱすげえ奴って違うんだな……」
奇跡的に、まだ誤魔化せていた。
「勇者様御一行、泰然自若とした様子でご登場! さあこちらへ! まずはお名前から……」
司会のフォローが入りつつ、四人はステージに上がり横一列に並ぶ。
そこからは名前を聞かれたり趣味を聞かれたりと、四人の話が掘り下げられていく。
基本的には人当たりのいいフリンテが応対し、他の三人も水を向けられれば嫌々応える。そのたびに司会がいい感じに誤魔化したりと、ギリギリ滞りなく進行していき、各種お偉方の紹介や挨拶もつつがなく終わる。
そしてついに訪れた、四人のそれぞれの挨拶。
誰も用意なんてしていない、完全なアドリブスピーチ。さらに深夜テンション。
これだけでもまともになり得ない要素ばかりなのに、実は先程、フリンテがさらなるカオスを投入していた。
それは「挨拶で一番笑いを取った人が優勝ってことにしない?」という頭のおかしい提案である。
当然、ただの挨拶になんの面白味も感じていなかった三人は乗り気になった。
なってしまった。
なってしまった以上何をするかわからないのがアホウドリ。
「さあそれでは、皆さんにお一人づつご挨拶を頂きましょう!」
戦いの火蓋が、切って落とされる。
「なんであたしあんな提案しちゃったのおおおおぉ」
開幕早々、言い出しっぺが戦意喪失。
フリンテはいつもそうだ。眼前に迫ったの危機には敏感なものの、少しでも未来の話となると途端に鈍感になる。むしろ自分で首を絞める。
今回も例に漏れず、観客に築かれないよう小声で泣き言を言い始めた。
「なら、まずはオレから行くぜェ。お笑いッてやつを教えてやるよ」
怖いもの知らずのナキ、出る。
司会から拡声魔法を付与された棒を受け取り、前に出るナキ。その自信満々の表情に、ほか三人は戦慄する。
――まさかあいつ、秘策があるのか?
――ひとりだけスベるのはやだああぁ
――パイ、なくなっちゃった
三者三様、それぞれの思いを抱き見守る中、ナキが口を開く。
「チーッす。俺はナキだ。話は苦手だから、一言だけ話すぜェ……」
一言だけしか覚えられない男ナキは、もったいぶるようにためを作ると、言い放つ。
「勇者になって
しん………………。
――なんだばかか
――もしかして、大丈夫かも?
――おなかすいた
「なん……だとォ……」
予想外の結果だったのか、驚愕の表情を浮かべるナキ。
圧倒的静寂を作り出し、笑いの点数は余裕のマイナス。がっくりと肩を落とし、拡声棒を司会に返した。
「えっ、もういいんですか? このままでいいんですか?」
「あァ……」
「じゃあ、次は私! 私のセンスを見せてあげよう!」
激烈にハードルが下がった好機を逃すまいと、ここでフリンテが次鋒に名乗り出る。
心配そうな司会から拡声棒を受け取り、前に出る快活巨乳少女。
「皆さんこんにちは! フリンテで~す!」
大きく手を振り振り、ファンサするフリンテ。
見た目も華やかな彼女がそういう仕草をすると、非常にかわいらしい。
観客もワアアァと歓声を上げている。
――さすがはフリンテ。もう心を掴んだな
――ちッ。かわいいは正義ッてか?
――おっぱい大きい
果たして、彼女の策は……、
「今回倒した黒龍なんですけど、鱗で攻撃してきたんですよ! こんな感じに……シュッシュッ!」
両手シュッシュッ! 観客おおおぉ。
「こんなっ! こんなかんじで!」
両手シュッシュッ。観客おぉ。
「こんな……感じで……」
両手しゅしゅ。観客しいん。
「えっと……おわりです……」
フリンテ先生の次回作にご期待ください。
――いやどうなる予定だったんだよ!
――似てねェ
――揺れてる。ばいんばいん
「あの……貴重な体験談ありがとうございました!」
傷心のフリンテに、全力でフォローを入れる司会。
もちろんそれで復活するほど傷は浅くなく、フリンテはがっくりと肩を落としてナキの隣に戻った。
「さて、お次は……」
「私」
この冷え切った空気の中、勇敢にも進み出たのはリシャ。
緊張も自信も特に見られないいつもの無表情のまま、拡声棒を受け取り前に立つ。
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