9話:勇者祭

「「…………へ?」」

 当然きょとん顔を浮かべるは、受付嬢とワイ君本人。

 ロンやフリンテも「おいおい」と頭を抱えている。

「ちょっ! あああ主様⁉ 差し出すのですか⁉ 私を差し出してしまわれるのですか⁉」

「喋った⁉ なにこれ何この生き物⁉ かわいいわりにやたらダンディーな声なんですけど⁉」

「せめて鱗くらいで勘弁いただけませんか!  それなら魔力で生成できます故!」

 がやがや、がやがや。

 二人が騒ぐものだから、酒場にいたほかの冒険者も「なんだなんだ?」と注目してくる。

 完全に目立ってしまった。

 黒龍討伐まではばれていないようだが、ここで騒ぎ続ければ時間の問題だろう。

 ロンは盛大にため息をつきながら、受付嬢に提案する。

「とりあえず、どこか個室に入れてくれ」



「君たちだね。新規層攻略を果たしたパーティというのは」

 場所を移して、ギルド内にある応接室。

 先程の受付嬢に加えて、傷だらけスキンヘッドの大男が四人の対面に座っていた。

 この男はセラの街のギルドマスター、セル。

 いかにも歴戦といった感じの褐色の男で、その眼力の強さは、瞬きの度に地面が揺れるような圧がある。

「ドーモ! アホウドリでッす!」

「バカみたいだからやめろナキ」

 そんなギルマスに対しても、四人は通常運転だが。

「まぁ、なんだ。パーティ名からして手遅れな気がするのだが」

「「「由来はこいつなんで。アホなのはこいつだけなんで」」」

「あァ?」

「君たちは本当にチームなのか……」

 ソファに座って顔をしかめるセル。

 こんな破天荒なパーティは初めて相手にするらしく、呆れと困惑から、重厚なその面持ちが僅かに歪む。

「まあいい。まずは九十九層の攻略を祝福する。うちのダンジョン深度は他の街に一歩出遅れていたからな。冒険者ギルドを代表して礼を言わせてくれ」

 驚くほど率直な賛辞。その強面な外見に反して、セルは案外と誠実な性格らしい。

 ロンは意外そうに眉をひそめるも、ギルドマスターという立場はそういうものかもしれないと思い飲み込み、「どうも」とだけ返した。

「他のまちィ?」

 代わりに疑問を口にしたのはナキだった。

 他の街・・・という発言がよくわからなかったらしい。

 常識レベルの話であり、ナキ以外は当然知っている内容だが、それでもセルは丁寧にその質問に応じた。

「いいかね。ダンジョンを持つは、ここのセラだけではない。五つの街があり、それぞれが一つづつダンジョンを保有しているのだ。まあ、ダンジョンの周辺に街ができた経緯を考えれば、順序としては逆だがな。もちろん、街のシステムは同じだ。ダンジョンごとに、最深層を更新した勇者パーティ・・・・・・がいる。つまりこの国には、五つの街、五つのダンジョン、五つの勇者パーティが存在するんだ」

「五個の街に五個のダンジョン、五組の勇者パーティ……。てッこたァ、合計二十五個のダンジョンに、百二十組の勇者パーティがいるッてことか! 結構多いな」

「解釈違いな上に計算も間違っているよ」

「おッ?」

 どうやら乗算してしまったらしい。

 ナキの計算で行くなら、確かに勇者パーティの希少性など皆無だろう。

 実際には、他の街にすら名声が届くほどの大きな名誉なのだが。

「とにかく、君たちにはこれら新たな勇者パーティとして、この街の顔役になってもらうことになる」

「「「「え~」」」」

「……ミスメル。通例通り、新勇者パーティのお披露目である勇者祭・・・を開催する。関係者に通達してくれ」

 そう言ってセルは、傍に立ち控えていた受付嬢に声をかけた。

 ちなみに彼女の名前がミスメルであることを、四人はここで初めて知った。

「わかりました。すぐに取り掛かります。開催予定はいつにしますか?」

「二週間後だ」

「二週間? 随分急ですね」

「商業連合をうまく動かせばいい」

「分かりました。ボス素材をいくらか流しますが、いいですね?」

「あぁ。任せる」

 当人たちを抜きにして話が進んでいく。

 とは言え、勇者祭は新たな勇者が生まれた際の伝統行事。よっぽどの理由がない限りは開催するのが常だ。それも、盛大に。

 普通のパーティであればその程度わきまえているのだが、アホウドリが普通なわけはなく、

「あっ、祭りは俺ら抜きでやってもらっていいすか? いろいろ面倒なんで」

ロンがひょいと右手を上げて、なんとそんなことを言い出した。

 ほか三人も同意するように頷き、フリンテに至っては「私は一般客として遊びに行こうかな~」などとほざく始末。

 勇者祭に勇者が欠席したいなどという話は前代未聞。ギルマスもミスメルも目を見開く。

「えっ、なんなんですか? また無欲アピールですか? 本当にかっこ悪いですよ?」

「主役がいなければ何を称えていいかわからない。得意ではないかもしれんが、将来的には君たちの利になる行事だ」

「「「「お気遣いなく」」」」

「こっちに気を遣ってほしいのだが……」

 ギルマスは目頭を押さえ、ミスメルはもはやドン引きしている。

 とは言え、その二人の気持ちを理解していないのはナキだけであり、ロンにいたってはわざと逆なでするようなことを言っているのだ。嫌がらせではなく、戦略的に。

「祝いたけりゃ勝手に祝ってくれていい。死んだ先代国王の誕生祭みたいなもんだ。そもそも、勇者に仕立て上げるのも祭りに出すのもそっちの勝手な都合だろ? 俺たちを街興しの道具にしないでくださいよ。こっちに参加の義務はない。あと、ボス素材を冒険者ギルドに売るとも言っていない」

「むぅ……」

「えっ……」

 ロンは、今後のいろいろなしがらみを回避するために、自分たちの考え方をアピールしているのだ。

 ギルドの駒に成り下がる気はない、そっちの思い通り動くとは限らない……と。

 ノッて来たのか、持ち前の口撃が切れ味を増していく。

「そもそも俺たちはまだ傷も癒えてないんだぞ。黒龍のブレスによる怪我は治りが遅いんだ。二週間後なんて急すぎる。それとも、傷だらけ包帯だらけの方が拍がつくってか? なんなら衆人環視の中ぶっ倒れてやろうか? そうなりゃせっかくのパレードを台無しだ。楽しい余興もおいしい料理も無駄になっちまうなぁ?」

「おいしい料理、食べたい」

「よっし出てやろうじゃねえか。せいぜい優秀な料理人集めてくださいねえ?」

 ただし、リシャには弱い。


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