7話:〇ちゃんねらー
五分後。
ようやく落ち着いた四人は、ミニチュアサイズになった黒龍の周りにしゃがみこんで緊急会議を開いていた。
「どォするんだよこいつッ」
「ボスをテイムするなんて前代未聞だよ……」
「確かに魔女っ娘とミニドラゴンはビジュアル的に抜群だが、こんなの考えもしなかったぞ」
「私も、さっき思いついた。上手くいってよかった」
「まあ、面白かったからいいけどさあ」
大きめのかぼちゃサイズになってしまったボス黒龍。リシャの言が正しければ、現在は彼女の使い魔になってしまったらしい。
モンスターをテイムする魔法自体は、確かに存在する。
しかし強力なモンスターほどテイムの難易度は上がり、可能なのはせいぜい六十階層の
九十九階層、それもボスをテイムしようなどという発想は、千人の冒険者にアンケートしても出てこないだろう。
そんなバカげた手を、魔法阻害効果をもつ鱗まで貫通して実現したリシャ。彼女の腕が一流以上であることは言うまでもない。
「いざとなれば、元のサイズに戻せる」
「ハハッ。チートじャねェか」
「ところで、名前はどうすんだ? 使い魔にしたなら必要だろ?」
「んっ。いいのを考えてある」
四人に囲まれ、ばつが悪そうにきょろきょろしている黒龍。それを指さしてロンが尋ねると、リシャは自信満々にふんすと意気込み、平らな胸を張った。
ちなみに、アホウドリというパーティ名もリシャが考えたものだ。つまりそのセンスは常識を逸しているわけで、
「今から、この子は
あわれ黒龍は、自身のアイデンティティを全否定される名前を贈られてしまった。
「なんか……なんとなくかわいそうなんだけど」
「ホワイトと言いながらブラック味を感じる……。よくわからんけど」
さすがに同情するフリンテとロン。
リシャの名付けはどうにもエッジが効きすぎる節がある。そしていつも、微妙な角度で的を射ているのだ。
「でも、ホワイトカラーじゃ、ちょっと長い。ニックネーム付ける」
「まあそうだな。一部を取って短くしてやりゃいいんじゃね?」
いつの間にかロンは尻を付けて床に座り、リシャはその膝の上に収まっている。そこはリシャの特等席であり、二人ともが一番落ち着ける体勢だ。
その至高の座席にて、リシャは至高の愛称を思い付く。
「ニックネームは、
「あの、主様。それはなんとなく俗っぽくて嫌なのですが……」
「「「………………」」」
「「「………………ん?」」」
「「「喋れんのかよ!!」」」
「あ、はい。恐れながら……」
会話の途中、突如第五の声が乱入した。
声の主は、なんとワイ君。その大きな口から発せられるやたら低く渋い声に、リシャ以外の三人が驚愕しツッコミがシンクロする。
先程から妙に居心地悪そうではあったのだが、一度言葉を発したことでさらに人間味が増したように感じられた。
「テイムの魔法に、知力向上の効果も付けた。今のワイ君は、私の五パーセントくらい賢い」
「まじかよ。ナキの百倍賢いじゃん」
「んだとこらァ!」
「否定できないあたりが悲しいよね……」
「いえ、私如き……」
なんなら、ワイ君の言葉遣いは四人の誰よりも知性を感じさせるほど丁寧で紳士。それは使い魔根性の表れか、本当にナキより賢いのか。
「ッたく! 結局ドラゴンスレイヤーは名乗れねえッてことか!」
「大丈夫だよ。勇者パーティの称号はもらえるから」
「いらねえェ」
とにもかくにも、現行最深層を攻略して見せたアホウドリ。
リシャ以外そこそこボロボロではあるものの、少しの休息をとった後、元気に帰路へと着いたのだった。
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