5話:ドラゴンテールは強制退場技

「待たせた」

「「いやだああああぁ!」」

 心なしかドヤ顔をかましているように見えるリシャ。

 それをほほえましく見守るロン。

 泣くバカ二名。

 リシャはおもむろにとんがり帽子を取ると、とんがりしている先端を左手で、ブリム部分を右手で握りこみ、大砲でも構えるかのように穴の方を黒龍へ向ける。

「えっ、その帽子ってそういう用途だったん⁉」

「んっ。ただのおしゃれアイテムじゃ、ない」

 ロンですら知らなかった衝撃の事実。

 確かにリシャの恰好は魔女っ娘スタイルで統一されているわけではなく、とんがり帽子以外は普通のフーディとミニスカートだ。帽子以外に魔法要素はなく、なんなら魔法使い職が持ち歩く杖すら持っていない。そもそもフードがついてるのに帽子をかぶっているのも無駄と言えば無駄。

 つまりその帽子こそが、リシャにとっての杖替わりなのである。

「なるほどな。よし、かましてやれリシャ!」

「んっ。魔帽砲、はっしゃ!」

「だせぇ!」

 リシャの掛け声とともに、帽子に謎の文様が浮かび上がり内部が白く輝き始める。

 そしてと称した通り、その穴部分からビームのように太い光線が照射された。

「ガアアアア!」

 その光線が胸元に当たり、明らかに苦しみだす黒龍。

 魔法であるはずなのに、先程のように霧散していない。

 いや、多少散っているが明らかにそのロスが抑えられている。

 光線の照射から暴れまわって逃れようとする黒龍に、リシャは帽子の角度を調整。照射を外さないようコントロールする。

 その攻防が二十秒程度続いた後、光線が次第に細くなり、止まった。


「んっ、失敗」


「「「えええぇ…………」」」

「ガルルルル」

 あれだけ啖呵を切ったうえで、なんの悪びれもなくあっさりと失敗宣言。

 多少効果は見えたもののまだまだ元気な黒龍は、怒りを湛えた瞳をぎらつかせながら、乱れた息を整えている。

「いや、でも……」

「助かッた……のか?」

 助かった、味方の奇行から。それもどうかという状況ではあるが、ひとまず一時の静寂が訪れる。

 しかしそこで、ロンが腕に回復魔法をかけながら口を開いた。

「いけるな」

「「えっ⁉」」

 まさかの発言に、ナキとフリンテが頓狂な声を上げる。

 場合によっては作戦続行。死活問題だ。

「リシャ。今のって、魔力波長を黒龍に合わせてたんだよな?」

「んっ、さすがロン。そのとおり」

 魔力の波長とは文字通り、魔力が持つ波形の形のことだ。指紋のように人それぞれ、生物それぞれで波長が異なる。

「すべての魔力を散らすのであれば、自分の魔力も散らしてしまい鱗舞は発動しないはず。つまり自分の魔力だけは受け付けるってわけだ。なら自他の判別基準はなにか? そりゃ、波長だよな」

「でも、完全には合わせられてない。若干散らされた」

 リシャは悔しそうにそう言うが、魔力の波長を他者と合わせるというのは、言ってみれば脈拍をコントロールするようなもので、常識的にできるものではない。

 故に悲観する要素など微塵もなく、その技術を実らせるべくロンは助言をする。

「おそらくだが、照射部分がずれまくったせいで余計に分散しちまってるんだよ。完全に一点に集中させれば、あの鱗の防御を貫通できそうな気がするんだが」

「それは、ある」

 ロンの言う通り、極力同じ部位に照射し続けたとはいえ、体表の一点に当たっていたわけではない。

 ある程度効果が見えていたことも踏まえて、魔法を極一か所に照射し続けられれば貫通できる可能性はある。

 寸分たがわぬ、鱗の一枚を狙うような精度が必要だが。

「ということで、みんな、黒龍の動き封じて」

 そうなるとリシャとしては当然、こうなるわけで。

「いやいやいやッ、無理だろッ!」

「あんなでかいの固定できるわけないって!」

 前衛二人は、こうなる。

 だが確かに簡単ではないし、どちらかと言えば不可能に近い。

 しかしロマンに取りつかれた男は、不可能程度で諦めない。

「リシャ。その魔法、あと何発撃てる?」

「さっきより効率化はできる。それでも、あと一発くらい」

「言い直し」

「撃てて……あと一発」

 やたら雰囲気を気にしつつ、満足のいく回答を引き出したロン。

 そして一瞬考えた後、有無を言わさぬ声音で言い放った。


「お前ら、覚悟決めろ! あの黒龍ふんじばって、リシャの魔法を通すぞ!」


「んっ!」

「「……」」

 元気よく答えたのはリシャだけ。

 しかしナキもフリンテも分かっている。現状唯一の活路は、リシャの魔法だけだと。無茶苦茶な迷惑を引き起こしても、なんだかんだ攻略できる方法だと。

「「だ~もう! わかったよ!」」

 覚悟を決めた前衛陣。

 ロンはにやりと不敵に微笑むと、すぐに真剣な表情に切り替え、全員に指示を飛ばした。

「よし。ナキ! お前はここで使い切って・・・・・いい! 全力で行け!」

「おゥ!」

「フリンテは、俺が呼んだらこっちにこい! それまではナキの援護!」

「了解!」

「リシャは拘束が完了するまで法式を組んで待機! 俺の後ろで守られてろ!」

「んっ!」

「よしっ! 作戦開始!」

 ロンの号令の下、全員が動く。

 まずはナキ。

「いくぜッ! フルアーマー!」

 ナキが再度、自身の肉体に強化をかけなおす。

 しかし、今までの強化とは明らかに違う魔力密度。

 それは、魔力効率を度外視した最大強化・・・・の叫び。一度の戦闘で数分と使えない、ナキの奥の手だ。

「あれ? 前はマックスアーマー・・・・・・・・じゃなかったか?」

「んッ? そうだッけかごぶえェ!」


 ドゴーン!

「「「あっ」」」


 ロンの余計な一言で集中を切らしたナキは、その最大強化に達する前・・・・・・・・・に黒龍の尾をモロに喰らい、壁に叩きつけられた。

 土煙がもうもうと上がり、ナキの声が途絶える。

 しなりの効いた渾身の尾鞭。その威力は鱗舞をはるかに凌ぐはずだ。

 

「「「………………じゃ、ナキ抜きでやりますか」」」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る