2010.5.21.10:17 frontroom

家に帰り俺は、疲れた体をソファに沈めながら、


「透の奴。集合させたのに五分で解散ってなんだよ。」

と一人呟く。部屋の静けさが一層、孤独感を際立たせる。


「俺もバックルームについていろいろ調べるべきかな…」

と、そこで透から連絡が来た。スマホの画面が明るく光り、透の名前が表示される。1件メッセージが来ていた。


「バックルームについて調べといた方がいいぞ」


溜息をつきながら仕方なくバックルームについて調べにパソコンを開き、検索にかけてみると、色々なサイトが見つかった。

画面に映る無数のリンクに目を通しながら、心の中で不安が膨らんでいく。


「バックルームは謎の多い空間…。Lv…?いろんな空間があるのか…アーモンドウォーターなんてあるんや…都市伝説にしてはちゃんとしてるんやな…?」


驚きと興味が交錯する中、リュックに必要な物を詰め込み、明日に備えて寝ようとした。


一通の電話が来た。

「こんな遅くに誰やろ?」

そう言ってスマホの画面を見ると透からの電話だった。


「もしもし、透どしたん?なんかあったか?」


透は笑いながら答える。


「いや、ただお前とゲームしたいだけだぜ。寝る前にちとゲームやろや。」


透の声には、どこか寂しさが滲んでいるように感じた。


「いや、今日は早めに寝るかな」


「そか、残念や」


「すまんな、ほな、切るで」


「…」


「どうした透、なんか元気ないやんか」


「…なあ凪、俺ら、向こうでどうなってまうんかな…」


「あほか。生き残るに決まっとるやろ。」


「そか…まあ、生きて帰ってこれたらさ…余生を謳歌しようぜ…」


「あほか、それフラグやろ。それに俺らは不滅だろうが。」


「そか、そうだよな……。んじゃ、おやすみ」


「おう、おやすみ」

と電話を切ると俺はすぐに寝た。心の中に小さな不安を抱えながらも、疲れが勝り、すぐに眠りに落ちた。


次の日の早朝に集合場所である駅に集まった俺らは、電車でバックルームに向かうことにした。


最寄り駅で透と合流し、コンビニで飯を買って、うたた寝しつつ約一時間ほど電車に乗り続け、ようやく目的の駅に着いた。

そこからまたバスに乗り30分ほどで目的地に着いたようだ。


「ったく。集合場所遠かったな…広いからって言って五月雨ん家になったけどよ…」


「しゃーないやろ。五月雨ん家めっちゃ遠いんやし」


「まあ、着いたし、行こうぜ」


「せやな。ほないこか」


「そういや、昨日来てなかった3人の自己紹介とかさせたら?」


「じゃあまずは私から軽く自己紹介するわ。私の名前は琴瀬 葉月、よろしく」


こっそり透が耳打ちしてきた。


「美人やな、あれが凪の後輩ってのが気に入らん」


「やかましいわ」


「じゃあ次僕かな?僕の名前は音無 葵。よろしくね〜」


「おい、次お前やぞ」


「ん?ああ、俺か、俺の名前はリーヴス。フィンランド人だよ。はっぱ君って呼んでね」


「ごつい体しとるよなお前…」


「まあアメフト部だからね」


「アメフト部?」


「そ。中学の時、野球部がなくてさ〜、野球じゃなくてアメフト部に入ったってわけ」


「なるほどな」


「じゃ、行こうぜ、中で五月雨が待ってる」


「あ、そやな」


そう言って俺たちは五月雨ん家に行くことになった。

住宅街の中にある豪邸に圧倒されながら、俺たちは玄関に向かった。


五月雨の家は住宅街の中にあり、めちゃくちゃ豪邸だった。

だがそれ以上に庭が広くてめっちゃ贅沢だな〜って思ってしまった。

庭の手入れが行き届いており、花々が咲き誇っていた。


五月雨は玄関の階段に座り、頬杖をつきながらスマホを弄っていた。そして俺らを見るやいなや、

「8人来たね、ようこそ私の家に!まあまあ入ってよ〜」

と言って俺たちを中に入れる。玄関には靴が何足かあった。

俺ら以外にも誰かいるのだろうか?

まあとりあえずお邪魔することにした。


すると、リビングらしきところについた。そこには俺らに話しかけてきた五月雨の妹と思しき人物がいた。


「お姉ちゃんおかえり……ってあれ?お客様?」


「そう、ちょっと用事があって呼んだの」


「なるほど……じゃあ自己紹介するね。私の名前は五月雨 玲花!よろしく!」


かわいい系の女の子は俺に顔を近づけてきて言った。


「ねえ、君の名前も教えてよ!」


俺はドギマギしながらも答える。


「……あ、ああ。俺は星乃 凪。よろしく」


「凪くんか〜……かっこいい名前だね!」


「お、おう……」


そんなやり取りをした後俺は五月雨に聞くことにした。


「なあ、五月雨」


「何?」


「あの玲花って子ってお前の妹だよな?」


すると五月雨が少し驚いたような顔をする。


「玲花がどうかした?」


「いや、あの子ってなんか俺にめちゃめちゃ懐いてるというかなんというか……」


すると五月雨は納得したような表情になり言った。


「ああ、それは多分あんたが私の彼氏だと思ってるからだと思う」


俺は慌てて否定する。


「何言ってんだお前!?そんなわけないだろう!?」


そんな俺を見て五月雨はニヤニヤしている。後ろから陽向にぶっ叩かれないか心配だったが、聞いていなかったらしい。


「まあまあ、冗談だよ〜。あの子は寂しがり屋だからさ、なるべく構ってやってよ」


「はいはい、わかったわかった……」

と呆れながら返した。


「おい、そろそろ行くぞ」


透が口を開く。


「りょーかい」


そう言って俺たちは五月雨の家の会合室みたいなところに来た。


「ここで何すんだっけ」


「忘れたのかよ、壁抜けだろ」


「どうやんだよ」


「俺らも知らん」


「なんだよ。また調べ直しか…」


「みんなー!飲み物持ってきたよ!」


玲花が人数分のグラスに氷を入れ、コーラを注いで持ってくる。

彼女の笑顔が部屋を明るくした気がした。。


みんなコーラでよかったのかな、なんて思いつつみんなの方を見た瞬間後ろから


パリーン


という音がした。

振り向くと、コップが全部割れ、コーラがぶちまけられていた。玲花の姿はない。


「え?何が起きたん?」


俺がびっくりしていると葉月が叫んだ。


「玲花ちゃんはどこ!?」


「も、もしかして……壁抜け……?」

と透が言う。彼の顔が青ざめている。そういやこいつビビりやったな。


その時であった。葉月が玲花の消えた周辺に近づくと、葉月が地面に落ちるようにいなくなった。部屋の空気が一変した。


震えた声で透が俺に言う。


「おい凪、お前も行ってみろよ」


「無理や……怖くて行かれへん……」と少し声を震わせながら答えた。


そしてみんなが俺を見るなりため息をつかれる。

その視線が一層プレッシャーを感じさせる。

まあ、そりゃそうだわなって思いながらもみんなの目を気にしながら一歩を踏み出した瞬間だった。


体が浮遊感に包まれる。地面がない。落ちている!

咄嗟に足で着地しようとしたが、荷物を背に背負っているため、着地が上手く出来なかった。


落下の衝撃で転がって頭を打ったが何とか助かったようだ。痛みがじわじわと広がるが、命に別状はなさそうだ。


落ちた先は黄色い部屋だ。蛍光灯のノイズが聞こえる。地面は湿っていた。

不気味な静けさが周囲を包み込み、心臓の鼓動がやけに大きく感じられる。


「ああ、ここがバックルームとやらか…」


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