第三章 ぼくのねがい
第10話 手がかり
僕の最初のお仕事は、若い男の人だった。パソコンを持っていて、画面の中になんだって作れる人だった。
「これが僕の得意技。何かあったらこれで助けてあげる」
「ありがとうございます」
彼にとっても初めての眠り屋への依頼だったみたいで、お互いに探るように過ごしたのを覚えている。
「準備はできているよ」
何度も依頼を重ねて、すっかり仲良くなった彼にそう言われて僕はすぐに返事をした。1秒後に、彼の魔法のような得意技が、ネットに広がる。
「ありがとうございます。たすかりました」
彼の魔法は、この先ずっと、僕が担当する依頼人が架空の人物になるというものだった。僕は予約でいっぱいと会社が勘違いしてくれるように、彼はパソコンで多くのことをしてくれる。
眠り屋に支払う依頼料は僕がこれまで貯めたお金で全て足りた。
僕が彼にそれを頼むことを決めたのは、少し前の依頼が原因だった。
「…………」
ある日の依頼前。要注意と書かれたメールが送られてきたのを確認して、僕は身を引き締めていた。眠り屋に依頼してくる人たちの中には、心が病気になっている人もいる。お話ができなかったり、暴れたりする人もいるから、前例が一回でもある人はこんなふうに要注意の連絡が来る決まりになっていた。
やっぱり、要注意の人は少し緊張する。何度も対応したことがあっても、何が起こるかわからない状況なのは落ち着かない。
「どうも、こんにちは」
「眠り屋さんですか? どうぞ」
にこりと笑って依頼人の人は僕を受け入れてくれた。それから夕食をとって、少ない量の言葉を交わした。のっくを渡せば、依頼人は目を閉じてすぐに眠ってしまった。
「…………」
寝たのを確認できたので、次は仕込みに映る。明日の朝は洋食がいいと言われていたからそこまでの準備は必要ない。材料を確認してから僕は自分の荷物に触れようとした。
「……あ!」
カバンに触った途端、どさどさと音を立てて電話が置かれている台から紙の束が落ちた。元に戻さなければと慌ててそれをし拾い上げる。たいして量も多くなく、電話の台も僕の手が届く高さだった。そっと直しておくだけにして、早く仕事に戻らなければ。
”戦谷紀央”
「え……」
僕は思わず手を止めていた。
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