第9話 それぞれのやり方

 彼が指示してきた内容は俺に全くない知識で、こうして料理ができるのかと実験をするように作った。味見した感じ、上手くできている気がする。仕込みをして、ひとまず休ませる。自分で風邪薬を買っていたようなのでそれは飲ませておいた。


「これでいいか?」


「かんぺきです」


 翌日。依頼人は起きるなり、食卓の上を目を輝かせて眺めていた。何度もこれを作ったのが俺か確認してくる。一口食べるたびに感謝を述べ、笑いかけてきた。数年分の感謝を一晩でもらった気がする。戦谷は薬が効いたのか、風邪の症状は治まっていそうだった。


「ばいばいのっく。また一緒に寝ようね」


 でかいぬいぐるみを受け取り、カバンにしまってまた代わりに背負った。本当にそれ以外の荷物がないのか軽いリュックだ。


「おてつだいありがとうございました。ごはん、おいしかったです」


「そりゃよかった。アンタの言った分量だけどな」


「そうかもしれませんが、すごくおいしかったんです」


 2人で依頼人の家を出る。彼は依頼人に好かれる素質があるようだった。だから多分、成績もいい。今日の依頼人が俺にも愛想良く接してくれたのは、戦谷がこれまで良い関係を築いていきたからだろう。でも俺も負けてはいられない。


「君がどうやって客を寝かしてんのか知らないけどさ、俺にも2位たる所以ってもんがあんのよ」


「そうなんですか。では、どうやっているんですか?」


「それは、君みたいなお子様にはまだ早い」


「?」


 戦谷は、汚れを知らないただの子供だった。そして噂はいよいよ現実味を帯びている。彼はきっと薬を使わずに成績を出している。そうすれば支給されている薬はどうしているのか、深追いはしないことにした。

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