第8話 家族の責任
「とりあえずは眠ったみたいだ。今夜の任務は完了だな」
「…………」
「おい?」
違和感を感じて目線を合わせる。嫌な予感はどうやら的中らしい。
「そう……ですね。ぶじにおわってよかっ……た」
「ちょ、……っと」
彼が倒れる軌道に手を差し出すと、そのままぽすりと体が乗っかる。思ってたより軽くて細くて、勢いで抱き寄せてしまった。
「熱上がってんじゃん」
「……っ」
「ったくもー。家買えよ……」
息が上がっていて、彼は答えない。子供にこんなこと言っても仕方ないか。悪いのはどう考えても放っている周りの大人や家族だ。
手から伝わってくる温度がひどく熱い。寝付けないのか目を開けたり閉じたりを繰り返していて、こっちも落ち着かない。俺はポケットから薬を取り出す。今日の依頼人は子供と聞いていたから一応計量した子供用の量だ。それを彼に見えるように差し出す。
「眠れないならこれで眠らせてやるよ。水持ってきてやるから」
「ちょっと、…まってください」
「なんだ?」
俺の腕を弱々しく掴んで彼は首を横に振る。何が欲しいのかはわからないが、話は聞いておくことにした。
「あしたの、しこみをしましょう。ちょうしょくがぼくの、おぷしょんなんです」
「はあ? 何言ってんだ。今は休むことが先決だろ」
「いいえ。ぼくのねむりやとしてのおしごとをするのがゆうせんです」
「お前……」
なんなんだ、この子供は。本当の馬鹿なのか。
それとも、教えてくれる人がいなかったのか?
多分、後者だ。彼には家族がいないから。そばで世話を焼いてくれる大人はいないから。
戦谷が母親を探しているのは社内で有名な話だった。今でも十分子供だが、今よりさらに幼い頃に生き別れ、会社も協力しているがなかなか見つからないと。海外に行っているという説が濃厚らしいが、彼はあきらめずに国内を探しているようだ。自分を置いて遠くにいくわけがないとでも思っているのだろうか。
「せいせきにばんさんなら、おぷしょんのだいじさを、わかってくれるはずです」
「あー……クソ」
確かに彼の言うことは一理ある。人を満足させるには、決められた方法だけでは足りない。そもそもマニュアルの対応で補えない人もいれば、基本サービス以上の特別扱いを好む人もいる。相手を想い、相手の状況や意を汲むスキルがなければ、眠り屋で成績を残せない。
次の依頼を呼ぶために俺も必死になった。そして今の方法でのし上がっている。
「しゃあない。手動かすから指示して」
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