第29話 最後に

  ◆


「姉さんも、終わったんだね」


「そっちも終わったか」


 姉さんは、闇色の髪になっていた。凝暗のブラックボックスを使ったのだと、すぐに分かった。俺の膨大な量の闇でも姉さんなら多分制御しきるだろうとは思っていたが、そういう結果になるんだな。


 姉さんは、別のブラックボックスを取り出し、闇烏を出した。


「それは?」


「応援の連絡だ。天上人を裁かねばならないからな」


「吸血鬼のルールでってことか」


「他にどうしようもないからな。全てを殺して解決する訳がない、天上人が自分たちで裁くわけもない、人間も吸血鬼のために天上人を裁いてくれる訳もない。となれば、自分たちで裁くしかないのだ」


 姉さんは「ところで」と話題を変える。


「それより、あれをどうするつもりだ?」


「削りきって壊すよ。俺なら、不可能じゃないはずだ」


「分かった。ところで、まだ行けるか? リリィ」


「どういう意味ですか? お姉様」


「あれだ」


 今まで自分たちがいた場所の方を見ると、少し遠くの方に、多くの天上人の姿が確認できた。


「先ほどの建物から逃げ出した天上人が、他の場所から応援を呼び寄せたのだろう。あれをベルに近づけて、ベルのやることを邪魔させてはならない訳だが、まだ行けるか?」


「もちろんです、お姉様。お兄ほどではありませんが、私だって、闇の総量は多い。まだまだ、問題ありません。それに、私だって、持っております」


 そう言って、取り出したのはブラックボックス。おそらく、凝暗だろう。それを見て、姉さんが笑みを浮かべる。


「ぬかりはないか。ならば、行くぞ!」


 二人は俺に託して行ってくれた。なら、俺もできることをやる。


「とりあえず、片方ずつ壊す。暗閑鎖あんかんさ!」


 闇で鎖を作って、光の板を縛り上げる。だが、数秒ほど経つと、パリンパリンと鎖が割れていく。


 --光の力が強すぎる。時間と量がかかるな。


 暗閑鎖を作り続けるも、どんどん割れていく。根比べだが、もっとマシな方法を考えた方が良さそうだ。


黒剰砲こくじょうほう!」


 スタンスを変えて、一点突破を試みる。一点だけに力を集中させて、そこを破損させようという狙いだ。


 闇の光線が、光の板とぶつかる。ぶつかるだけで、すぐには何も起きようとはしてくれない。それでも、撃ち続けなければならない。凝暗を2つ割り、その分の闇をコントロールして体に留める。姉さんがやっていた、余剰の闇を体に留めるという技術をやってみる。


「ベル様」


 アネットに心配をかけてしまっている。不甲斐ない。だが、後ろでは俺に託して戦ってくれている姉さんとリリィがいる。どうにかして、早めに終わらせるための算段をつけないと。


 そう考えたとき、もしかして、と思った。アネットの方を見る。


「アネット、手伝ってくれないか?」


「え? はい! 私にできることでしたら」


 傍まできてくれたアネットの肩に手を置く。そして、闇を流した。それにより、アネットは察したようだ。アネットも、腕を光の板の方に向けて、掌を開いてくれる。


黒剰砲こくじょうほう!」


 そして、アネットの手のひらからも、黒剰砲を出した。ブラックボックスを使えるようにするとき、眷属にも闇を流せるのは既にやったことがある。それを応用すれば、アネットにだって俺の技が使えるはずだと思った。予想通りだ。


 2つの光線を、一点に集中させる。これなら、しばらく撃ち続ければいけるだろう。


 そう、思った矢先。アネットが膝から崩れ落ちた。

 しまった! 闇の影響を受けて、体力が削れている!


「アネット、やっぱり--」


「嫌です! ここにきてやっと、お役に立てそうなんです。ここでやめたくありません!」


 だが、やめさせたかった。アネットを失うかもしれない。その気持ちが、だんだん強くなる。


 いったん黒剰砲を撃つことをやめた。アネットにはやめさせよう。そう決心したとき、アネットの体が光り輝きだした。


光譲こうじょう


 光の力? 誰だ? 振り返ると、そこにはツァーネルさんが!


「微力ながら、お力添えいたします」


 光の力によって、闇の力によって削れた分の体力を、アネットは取り戻した。黒剰砲を撃ちながらでも、回復し続けるので、これなら途中で参ることもない。


「アネット、いける?」


「はい! ツァーネルさん、ありがとうございます!」


 今一度、2人で手を構える。


「「黒剰砲こくじょうほう!」」


 2つの、闇の光線が放たれる。しばらく撃ち続けていると、光の板に罅が入ってきた。


 その罅は、だんだん広がっていき、やがて、光の板は割れた。それと同時に、もう片方の光の板は、光を失う。


 それを見たときに、悟った。この光の力は、2枚があって初めて意味があったのだと。


「これって--」


 アネットも悟ったようだ。


「ああ。これで終わりだ。攫われた人たちも、応援が着いたら対応しよう」


  ◆


 あれから、浮島Bには、吸血鬼の応援が駆けつけた。攫われた人たちは、無事、元の家へと帰してくれるようだ。


 光の板を作ったフロスや、吸血鬼を殺したヴェンダリオンとレイノルド。この三人は、吸血鬼側で裁きを下すことになった。他の天上人は、今後も普通に生活をしても構わないとした。行き過ぎていない者と、争うつもりはないというのが、吸血鬼側の考えだからだ。


 その考え方を、俺は心地良いと思っている。

 これからも、俺はアネットたち人間や吸血鬼のために、戦うことになるだろう。

 自分の心に、恥じない生き方を。そう決めたから。

 



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これで完結になります。主に戦闘が書きたくて書いた作品でしたが、

気に入っていただけたなら嬉しいです。

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ここまで読んで下さってありがとうございました。

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吸血鬼ですが、人間を守ります たての おさむ @tateno_101

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