第28話 レイノルド
◆
「さて、やろうか。レイノルド」
「驚いた。名前が割れているのか」
「能力までは知らんがな。生き残った奴が名前と外見だけは教えてくれたよ」
「とりこぼしがあったのか。まあ、いい」
レイノルドは、両手を下げたまま広げてから言う。
「アンタみたいな強者と戦えることを、誇りに思う」
「アンタみたいな強者が外道であることを、悲しく思うよ」
その言葉に、レイノルドはニヤリと笑った。恥とも何とも思っていない。ただ、目の前の快楽を楽しむだけのタイプのようだ。こんな奴に、負けてはならないな。
「
レイノルドが、光の力で爪を作った。そのまま向かってきて、私を切り裂こうとする。こんな単調な攻撃に、当たる理由はない。爪が私の体を切り裂こうとするその動きに合わせて、細胞レベルで自分の体をぐにゃりと動かして避ける。相手からすれば、体を切り裂くつもりだったのに、終始、空を切ったような感触だっただろう。逆に、こちらから蹴り上げる。
当たったが、当然、あまり効いている様子はない。またもやニヤリ、と笑いもう一度光爪で切り裂こうとしてきた。もう一度、同じように避けようと思った。
そのとき、体に当たる寸前、一瞬だが、光爪の速度が上がったところを見た。その瞬間に、細胞を動かすだけで無く、体を仰け反らせて避ける。思った通りと言うべきか、先ほどよりも速度の上がった爪が私の体を襲っていた。細胞の変形が間に合わず、腹部が切られる感触があった。
「勘が良いね、流石だ」
もう一度蹴りつつ、距離を取る。
「お前は、速さを上げられるようだな」
「察する能力もいいね。好みだ」
「私はお前が嫌いだ」
人を不愉快にさせるのがうまい。まるで採点するかのような頭と目線をしている。
「
続いて、レイノルドは光で兵士を作った。と言うより、甲冑だろうか。それはリリィの暗鬼のように自立しており、手に持っている光の剣を構える。
「
それだけでなく、レイノルドは追加で光の力を光隊に分け与えた。本人は、能力を存分に使い、速度を上げて攻めてくる。2対1というわけだ。
とりあえず攻撃を受け流すことにした。時には腕で、時には細胞ごと体を動かして、受け流すことに集中する。
「
そして、一瞬の隙を突いて、暗刻を光隊にねじ込んだ。闇の尖った蹄鉄が刻まれた光隊は、そのまま消滅して1対1に戻る。レイノルドの回し蹴りを避けて、攻勢に転じようと蹴りに行く。
「
だが、蹴りは空を切った。レイノルドは光の羽を生やし、宙へと逃げたのだ。
「
そのまま、宙に光の球が8つできたかと思うと、それぞれから光線がいくつも発射された。流石に、全てを避けられるほど、自分の体をコントロールできないが、この程度の威力なら問題はない。当たりながらも、地を蹴りつつ素早く飛ぶ。
「飛べるのか!」
レイノルドが驚いたときには、もう蹴りの射程圏内だ。上からかかとを落とし、レイノルドを叩き落とす。
「
その上で、空に闇で雲を作る。
「
暗雲を作ったときに使った闇のエネルギーで、そのまま濁雷を作り放つ。だが、レイノルドは叩き落とされても、その勢いを押し殺すためにバク転を連続でやった。追いかけるように撃った濁雷は外れてしまう。
「
「
続けざまに闇で、長く太めの針を指の間に6本作り、3本ずつ投げる。対して、光爪でレイノルドはそれを弾いた。
「どうやら、もう少し頑張る必要がありそうだな」
私は、その覚悟を決めて、ベルに渡されたブラックボックスを指で砕く。瞬間、自分では制御しきれないほどの闇が私自身の力として吸い込まれてくるのを感じた。髪の毛すらも闇色に染まるほど、闇の力が溢れてくる。
「フハハ、なるほど! これはいい!」
「
状況が変わったのを察したのか、レイノルドの表情が少し険しくなった。光隊を、今度は2体作り出した。どうやら、複数体作れるようだ。その上で、レイノルドは更に速くなって、攻めようとしてくる。
私はそれを受け止めるため、そして溢れそうな闇を少しでも使うため、闇の髪の毛をとにかく長く伸ばし、黒剣を六本握らせた。それを使い、光隊二体とレイノルド本人と戦う。剣と剣、剣と爪がしばらくぶつかり合う。
だが、物量が違う。光隊2体は、やがて自然と切り伏せることができ、消滅させられた。後は、高速で動くレイノルドのみ。
この最後の詰めが、中々ケリがつかなかった。レイノルドは、言うだけはあって、闇に削られながらも、やられることなく戦い続けた。
「
続けて、レイノルドは丸まって、自分自身に光輪をつけ、そこに光針をつける。それはまるで、ボールにトゲ付きのベルトを巻いたかのような状態になった。そのまま高速で回転し、突っ込んでくる。
流石にこれは、体を変形させるだけでは避けられない。その上、黒剣を弾いた上で突っ込んで来た。私は、右に動いてそれを避ける。
「
弾くことが不可能な攻撃をする。だが、それらも全て避けられた。おそらく、光の力によって体を強化しているから、酔うこともなければ、攻撃が見えないということもないのだろう。
そのまま、レイノルドはジャンプする。
「
さらに、レイノルドは回転したまま光の輪を放ってくる。それは、一時的に私を縛り、動きを封じた。だが、こんなものは、体を変形させることで抜けられる。
だが、相手はその一瞬が欲しかったようで、再び突っ込んで来た。おそらく、このままでは抜け終わる前に当たるだろう。しかし。
左右から、挟むように。長く伸ばした闇の髪で拳を作り殴る。それによって、レイノルドの突進は止まった。回転はし続けているが、挟んでいるので、前に進むことはない。
「左右ががら空きだぞ。もう、その技は使わない方がいいな」
私はそのまま、レイノルドを掴んだまま、回転の勢いを押し殺すために万力のように力を入れる。流石に回転が止まり、苦しそうな表情が見えた。
「貴様に似合いの状況だ。食らうがいい!」
あとは、残った髪で4つの拳を作り、殴り続けた。レイノルドの体力が、尽きるまで。
やがて、抵抗する力がほとんどなくなったところで、レイノルドを離し、髪をひとつにまとめ、巨大な拳を作る。
「
そのまま、押しつぶした。持ち上げると、すっかり、気を失ったレイノルドの姿が見えた。
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