第27話 ヴェンダリオン
辛うじて、意識があるが、倒れてしまう。ずっと痛い。痛い。
だが、ほんのちょっとずつ、痛みがやわらいでいくのも、伝わってくる。ツァーネルさんの能力だろう。
今は、きっと、リリィが戦ってくれている。これ以上お兄に手を出さないで、という叫びも聞こえる。アネットの心配そうな声も聞こえる。
しかし、このまま治って、どうすればいい? どうやったら、ヴェンダリオンに勝てるというのだろう。本気で技の応酬をして、この様だぞ。
どうにか、ヴェンダリオンの方を見る。光をオーラのように纏ったまま、暗鬼と戦っていた。
--待てよ?
治されながら、考える。肉弾戦も遅れをとらず、不意をつくこともできる戦い方を。
怪我が完全に治ったとき、ある程度の心は決まった。
「ありがとう、ツァーネルさん。もう大丈夫」
「でも、ベル様。まだ戦えるのですか?」
「やってやるさ。それに、闇もまだある」
「あれだけ使ったのに、ですか?」
「これだよ」
アネットの不安そうな声に明るく答えながら、息をついてから、ブラックボックスを取り出す。
「
それを、指先で砕く。すると、ぶわっと闇が放出されて、俺の中に吸収されていった。
「今のは--」
「俺が1日を通して放出できるほどの量の闇を、固めてブラックボックスにしていたんだ。これで、全快だよ」
そして、ヴェンダリオンの方を向く。
「行くぞ! ヴェンダリオン!」
「おお? なんだ、威勢が良くなったな!」
「お兄!? 無理しないで!」
「お前もだぞ、リリィ。俺はまだやれる」
呼吸を整え、手が思い通りに動くことを確認してから、技を使う。
「
闇を纏う。相手が光をオーラのように纏うように、俺も、闇で自分を包み込む。
「お兄、それ--」
「闇には元々、削る能力があるけど、よく考えれば技そのものにはちゃんと威力があるだろ? つまり、闇にはパワーもあるってことだ。光と同じように、吸血鬼である俺たちが纏えば、パワーアップできるはずだ」
「ハハハッ、なるほどな。これからが本番って訳だ」
ヴェンダリオンは、すっかりこっちに興味を惹かれたようだ。暗鬼との戦いを止め、こっちを見る。リリィも、一旦退いて機を伺おうと、暗鬼を退かせて目を光らせ始めた。
「なら、行かせて貰うぜ! 楽しませてくれよ!」
向かってくる。それを見て、まずは仕込みをする。
「
黒爆を起こすための球を、一気に9つ作る。
「
そして、それぞれを固めてブラックボックスにして、ヴェンダリオンの方へばらまくように投げる。
「ぬ!」
そして、起爆。一気に複数の黒爆が、ヴェンダリオンを襲う。
だが、まだまだ削りきれていないようだ。そうだろうとは思っていたが、今のを受けてもなお、殴りかかってきた。
俺も、それに答える。今度は、拳と拳をぶつけあって殴り合う。俺の考えは当たっていたようで、やはり、闇を纏えば吸血鬼ならパワーアップはできる! 殴り合いで、簡単に負けていない!
流石のヴェンダリオンも、キリがないと感じたのか、一旦離れて、サイコキネシスを使い出した。床を正方形に切り取った物を4つ用意し、俺を押しつぶそうと放ってくる。
だが、今の俺は、能力でも闇でも、心体能力を上げてある。だから、向かってくる物体をそれぞれぶん殴った。案の定、それらは砕け散ってしまい、ヴェンダリオンの思い通りにはならなかった。
そこからは、再び殴り合いだ。殴り合っている間も、優勢と劣勢が未だに入れ替わる。化け物か、と毒づきたくなる。
「
「!」
「何!?」
どこから切り崩したものか、そう悩みながら殴り合っていたら、予想外の援護がきた。リリィが、黒剰砲を使ったのだ。
そう来るとは、俺もヴェンダリオンも思わなかったので、ヴェンダリオンは、体を覆うほどの闇の光線をまともに体中で受けることになった。
「ぐおお!」
これは効いたはずだ。俺も、このチャンスに乗っかる。
「
「こ、
流石に、と言うべきか、今度は対応してきた。再び、光線同士がぶつかり合う。
「光線同士のぶつかり合いなら、まだ俺の方が有利だ!」
「それはどうかな」
「何だと?」
「足元を見てみろ」
ヴェンダリオンが足元を見てみる。すると、そこにはブラックボックスがあった。そう、さっき凝暗で固めた黒爆のブラックボックスだ。全てを爆発させた訳じゃあなかったんだよ!
「しまっ--」
「
ヴェンダリオンの足元で、闇が爆ぜる。黒爆による風圧によって足場が崩れ、ダメージも入り、光撃の威力が緩んだ。同時に、黒剰砲が競り勝ち、黒剰砲がまともに当たる。当たると同時に、風圧に似たような圧で押し続け、ヴェンダリオンの体力を更に大幅に削る。黒剰砲が止んだとき、ヴェンダリオンは息を整えた。
「まだだ! まだ終わって--!」
「いや、終わらせる」
相手からすれば、一瞬の出来事だったのかもしれない。黒剰砲が当たったときから、距離を詰めていたのだ。闇で周囲が見えなかったであろうヴェンダリオンは、足元で拳を構えている俺の方を見るのに時間がかかった。
「
そして、本気でぶん殴った。能力を乗せ、闇の力を乗せ、思いきり。
これにより、ヴェンダリオンは盛大に吹っ飛んだ。もう、踏ん張る力も残っていないようだった。今までの威勢が情けなくなるほど、あっけなく、力なく、地面に落ちていった。
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