第26話 二人の敵
それから、1時間が何事もなく経過した。
「それで、結局何をしたんだ」
「あいつの能力を削った。いわゆる、思いつく能力かな。脳そのものに干渉して、二度とあんな胸くそ悪い代物を作れなくしたんだ」
「うわぁ。お兄、吸血鬼の中でも大分すごいことできるようになったね」
「思ったより、できることが多くて俺も驚いてるよ」
削る能力。それが、闇のエネルギーであるのならば、他にもできることがあるかもしれない。
そう思いながら、遺跡のような建物を後にする。
「それより、どうしてツァーネルさんが付いてきているんだ? 俺が知らない間に、何かあった?」
「はい。改めてリリィさんが、眷属に誘ったんです」
「天上人である私を、眷属にするなど、吸血鬼のためにはならないとは思ったのですが。あなたがいい、とまで言われて断る理由がありましょうか。誠心誠意、尽くさせて頂きますよ。もちろん、皆さんにも」
「それより、私の目的の奴がまだ出て来ていない。連戦になるかもしれんが、闇の残量は大丈夫なのか?」
「そこは考えがあるよ。そうだ」
姉さんの心配には答えがある。それはそれとして、渡しておきたいものがある。
「姉さん、これ」
「ブラックボックス?」
ブラックボックスをポケットから取り出して、投げて渡す。姉さんなら、キャッチを失敗することはないだろう。実際、失敗しなかった。
「姉さんがもし、闇を最大限に使いたいと思ったら、使ってみて。指で砕いたらいいから」
「? 分かった。気にとめておこう」
そうやって姉さんと会話していると、リリィが不服そうな顔をしていた。
「……むぅ」
「どうした?」
「割って入れない。悔しい」
「ああ」
そんなことを言われても。放置して、姉さんと話の続きをする。
「それで、お前たちはこれからどうするんだ?」
「姉さんに付いていくよ。それに、フロスが作った装置がまだ浮島の奥にあるみたいだから、それを壊さないと。そういえば、あの部屋にあった装置って、まだ残ってる?」
「待っている間、暇だったから暗鬼で壊したよ。お兄ほどじゃないけど、かなり時間がかかった。かなり光のエネルギーが使われているから、奥にある装置を壊すのも、相当に時間がかかると思う」
「なら、とりあえず奥へ向かおう。何、いずれ会えるだろうさ」
その言葉は、すぐに事実になった。しばらく歩いていると、2つの正方形の舞台がある地に辿り着いた。それぞれに1人ずつ、天上人がいる。そのうちの、筋骨隆々としたスキンヘッドの、白いズボンを履いた男の方が溢す。
「来たな」
「ベル、奴らだ。吸血鬼を殺し回ったのは」
「じゃあ、相当強いな。しかし、何で、こんな広間が二つもあるんだ?」
「あれを作るためだ」
細身の、緑髪で青服の男が自分の後ろを指さした。そこには、巨大な光の板が2枚、縦に並んでいた。
「あれを作るために、人を集める必要があってな。元々、腕比べのためにあったリングを増設して、場所を作ったんだよ」
「ベル、あれか?」
「ああ。あれがおそらく、装置だよ。光の板が二枚ある」
「そうか。では、やることは決まったな」
姉さんは、細身の男の方へ向かう。
「お前たち、そっちを頼む。私は一人でいい」
「分かった」
「お姉様、ご武運を」
「リリィもな」
「返事して頂けたから、頑張るわ!」
「そうか」
このテンションのときのリリィは、軽く受け流すことにしよう。
ところで、目の前の巨体には聞きたいことがあった。
「戦う前にひとつ聞いていいか?」
「なんだ?」
「なぜ吸血鬼を大勢殺したんだ? こんな兵器があるなら、開発が進むまで待ってから殺しに来た方が、お前たちにとっては良かったはずだろ」
「簡単だ。戦いのためさ」
「戦いのため?」
「お前たち吸血鬼を殺せば、吸血鬼側から戦士が派遣されることは知っていたからな。そういう奴らと、俺が戦ってみたかった。だから吸血鬼どもを殺して、お前たちのような戦士が来るのを待っていたのさ。俺とレイノルドでな」
「……それだけのために、敵や身内がどれだけ犠牲になっても構わないってか?」
「構わないね。さぁ、やろうぜ。俺はヴェンダリオン。ここに来たって事は、それなりに腕は立つんだろ? どうせ、俺は負けないからな。少しは楽しませてくれや」
「そうか、分かった。お前はぶっ倒す」
容赦はいらない。だから、思いきり殴りかかることにした。ヴェンダリオンは、光をオーラのように纏いながらも、それを、まるでわざと受ける。
「ハハハッ! 流石に良い威力だ!」
ヴェンダリオンの攻撃。殴ってきたが、避けられなかった! 腹部が押しつぶされて、痛む。体から空気が、全部出て行きそうになった。風を背中が受ける。
「
リリィが加勢してくれる。暗鬼の金棒を、ヴェンダリオンは右手で受けるが、ダメージを受けている様子はない。むしろ、左手を添えて、段々と押し返してきている。
「嘘! 暗鬼が力負けしてる?」
金棒は弾き飛ばされ、俺と同じように吹っ飛ばされた。次は同じようには行かない。交代するように、俺が前に出る。
だが、同じ事をしないのは相手も同じだった。右手の人差し指を立てたかと思うと、急に床の一部がせり上がってきた。
「サイコキネシスだ。俺にはこれができる!」
余裕たっぷりに、言い聞かせるようにそう言った。同時に、背後の床の一部もせり上がり、挟むように迫ってくる。だから、蹴りの威力を上げて床を蹴り、ジャンプすることで、挟み撃ちから逃れた。
「甘ぇよ!」
それを追うように、正方形に切り取られていた床も持ち上がり、顎に当たった。痛いが、脳が揺れるほどではない。落ちるが倒れずに手を床について後ろに飛ぶ。
「
今度は、リリィが物陰を利用して暗虎でヴェンダリオンを切り裂いた。だが、余裕が崩れることは全くない。これは、とにかく闇で弱らせ続けないと、とてもじゃないが勝ち目はなさそうだ。
「
サイコキネシスとほぼ同じモーションをしたかと思うと、足元に円形の光が見えた。慌てて避けると、床から光の光線が放たれていた。それはまるで、光の塔のように見えた。
「
まるで濁雷のように、光による雷を放ってきた。流石に、濁雷の速度には慣れているので、これもかろうじて避ける。
「
やられてばかりではダメだ。とにかく、少しでもいいから削らないと。空中に闇の球体を五つ作って撃ち放つ。だが、全て避けられる。
「
もうひとつ球体を作り、撃つ。ヴェンダリオンは同じように避けようとするが、今度の球体は爆発する。流石に爆風が当たったようだが、まだまだピンピンしている。
「
続けざまに、リリィが攻める。
「
だが、光の壁を作られて、光撃が防がれてしまった。
「
次に、光の輪を作った。それは旋回しながら飛ばされ、暗鬼の体を真っ二つに切る。
「
暗鬼に注意が向いているうちに、ヴェンダリオンの足元から紫みを帯びた黒い竜巻を発生させる。
「
だが、ところどころから光が漏れ始め、やがて光のオーラの広がりによって、竜巻がかき消された。
「
「
お互いに、光と闇の光線のぶつかり合いが起きる。闇で、相手の光線の威力を削っているはずなのに、段々と押し負けているのが分かる。こんなに、差があるのか!
「うおおおお!」
光が、どんどん迫ってくる。気付いたときには、光のエネルギーによる熱が、体中を覆っていた。迫ってくる光のエネルギーに、押され続けている! 熱され続けている! 熱い! 痛い!
「ベル様!」「お兄!」「今治します!」
光が、止んだ。辛うじて、呼吸ができる。そう、思っていたら。目の前に、ヴェンダリオンが迫っていた。拳も、迫っていた。
そして、腹を貫かれた。鋭い痛みが走ったかと思えば、傷口から全身に継続的な痛みが伝わってくる。痛い、痛い、痛い! 口からも、血が出て来た。
そして、ヴェンダリオンは拳を抜いて、言った。
「なんだ、治せるのか? いいぜ、治せよ。もっとやろう!」
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