第3章

第24話 浮島へ

  ◆


闇烏やみからす


 リリィが、巨大な闇烏を作る。それに、4人で乗った。姉さんは、自分で飛べるから併走してくるそうだ。


 飛んでいるところを誰かに見られないか危惧したが、天上人に能力者がいることから、見られたところで特に怪しまれないそうだ。加えて天上人側は、人間の技術ではまだ浮島に自由に行き来ができないため、見張りなども付けていないという。いずれ、人間の技術が天まで届けば、見張りが立つようになるのだろうか。


「そういえば、姉さんはなんで浮島Bに行くの?」


「吸血鬼が24人、あの浮島にいる戦士に殺されたそうだ。ひっそりと暮らしていた吸血鬼を、一方的にな。そんな奴らを野放しにはしておけないということで、私に仕事が回ったのだ」


「そんな奴までいるのか」


「だが、そっちは私に任せてくれればいい。お前たちは実験の阻止とやらを頑張ってくれ」


 浮島の、更に上空に辿り着いた。地上とそこまで代わり映えはないが、時代錯誤な建物がちらほら見える。


「建物が色々あるけれど、あれは?」


「浮島だから、資材に限りがあるんだ。昔の建物もそのまま使わないと、場所も足りないのだよ。だから、重要なことは、比較的大きく古めの建物の中で行われている場合が多い。例えば、あそこか」


 姉さんが視線で促した方を見ると、まるで遺跡かのような建物がそこにはあった。そこいらのコンサート会場よりは人を収容できるし、住むこともできるくらいには広そうだ。


「では、先に行って囮になって来よう。どうせ、私が用がある奴は、ある程度こちらの強さを示さないと出て来てはくれんだろうからな。その間に、実験とやらの阻止をするといい」


「分かった。気をつけて」


「誰に言ってる」


 姉さんが、そのまま彗星のごとく遺跡のような建物に突っ込んでいく。俺たちは俺たちで、別方向から建物内に入っていくことにした。


 石材で作られた建物には中庭があり、それをぐるりと囲むように建物が建造されている。窓の数からして、おそらく三階建てだろうか。


 姉さんが突っ込んだ位置に向けて、天上人が移動している。


「で、どうするの? お兄」


「姉さんが突っ込んでくれたから、それを利用しようと思う。何か大事なものがある天上人や、戦えない天上人の動きは、戦える天上人と比較して動き方が違うはずだ。俺たちは、そっちの天上人を追おう」


「分かった」


 しばらく、空き部屋で隠れて待っていた。すると、明らかに姉さんが突っ込んだ方とは反対側へ向かう天上人たちが現れた。


「おい、連れてきた地球人たちは本当にこっちだろうな?」


「は! 間違いありません!」


「なら、早速実験をするぞ! 今回の敵襲はいいチャンスだ!」


 実験、という言葉が聞こえた。どうやら、この機会に乗じるつもりらしい。


「こっそり、後を付けよう」


 付けていくと、広い廊下に出た。2人の男は、どんどん進んでいく。


「貴様たち、何をしている!」


 後ろから声! 気付いたときにはもう遅く、ツァーネルさんが捕まっていた。


「すみません……ベル様」


「ツァーネル!」


「動くなよ? 動いたらこいつのことは保証しないぞ」


 リリィが心配そうに声を上げる。前にいた連中にも気付かれ、挟み撃ちにされた。

 そう思っていたが、2人がツァーネルを人質にとっている男の側に行った。そのうちの1人、白髪で他2人よりは背が低めの白衣の男が「よくやった」と褒める。


 「そいつは人間か?」


「はい。私には分かります。人間です」


「なら、丁度いい。向かう手間が省けた」


 ツァーネルは、白衣の男に渡された。そして、ツァーネルを抱えて走り出す。


「クローム、レイドン! そいつらを足止めしておけ! 私は3階に行く!」


「「はっ!」」


暗鬼あんき!」


 レイドンと呼ばれた男は、光で剣を作り出す。クロームと呼ばれた男は指先から光の爪を出した。


 俺はブラックボックスから黒剣を出す。リリィはさっさと暗鬼を出してクロームに突撃していった。


 相手は2人とも光を纏っている。簡単には突破できそうに無かった。



  ◆



 さっさと倒して、ツァーネルを助け出す!


 暗鬼には、まず目の前にいるクロームに殴りかからせた。棍棒と、指の数倍の長さを誇る光の爪で打ち合っている。


「アンタに構っている暇はないのよ!」


 私の気持ちを闇に乗せる。暗鬼の力一杯の攻撃は、クロームに防御を強いていた。


 だが、それならそれでと、クロームは段々と、のらりくらりと戦うようになりだした。暗鬼の攻撃をいなすように立ち回っている。そんなことをされたら、早く助けにいけないじゃない!


 まずは、爪を折る! 闇を通じて、暗鬼に命令。自分を狙ってくると思っていたクロームは、いなそうとして爪を狙われて、意外に思ったようだった。いなしきれずに、光の爪は折れて消滅する。


 今だ。今なら、いなされない。今度こそ直接殴るべく、クロームを狙う。


 だが、暗鬼の体を光が貫いた。今度は、光の爪を攻撃に使ったのだ。攻撃に意識が向いていたため、暗鬼が簡単に貫かれてしまった。そのまま、暗鬼が消滅する。


「あ--」


 クロームは、暗鬼の消滅を確認して、指先をこっちに向けてきた。


「止まって!」


 瞬間、アネットの声が聞こえた。目の前に、光の爪が伸びてくる。同時に、アネットによって左に引っ張られた。間一髪、頭を爪に貫かれず済んだのだと、すぐに分かった。


 それから、アネットに両肩を掴まれる。


「しっかりしましょう! ツァーネルさんを、助けるんです!」


 その言葉に、我を失っていた自分に気付いた。我を失っていなければ、爪に対応できる余裕があったかもしれない。今の状況が、ツァーネルを助けるためになっていない。


 深く、息を吸う。吐く。まだ、勇み足が拭えない。けれど、さっきよりは、考えられる。


「ありがとう、アネット」


 お礼を言って、前を見る。ジッと待っているクロームを睨む。


「何だ、終わったのですか? 長引く分には、一向に構わないのですがね」


 そうだ、長引かせてはならない。何なら、倒す必要すら、ない。


暗鬼あんき


 落ち着いて、暗鬼を呼ぶ。そして、再び戦いを始めた。今度は、隙を見せないように、確実に、一手一手詰めていく。考えがあるから。


 やがて、暗鬼が振り下ろす金棒を、クロームが両手から伸ばした光の爪で受け止めようとしたとき、今だ、と思った。地面に手をつき、相手の足元の石材をぐにゃり、と軟化させる。急に足元が不安定になって、姿勢が崩れる。


 その結果、まるで釘を打つように、金棒によってクロームは石材の中に沈んだ。それを確認して、地面から手を離す。そうすると、石材の軟化は元の固さに戻る。クロームは、床から頭だけを出した状態になった。


「き、貴様……!」


「ぐうう!」


 隣を見ると、ちょうど、お兄の方も戦いが終わったようだった。それなら、もう障害はない。


「行こう、お兄!」


「おう!」

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