第23話 種明かし、それから

  ◆


 2人の処理が済んだあと、警察を呼んだ。ダーズのことや虚無のことなど、アネットやリリィに説明を求められたが、事情聴取もあるから落ち着けるときにと、一旦逃げた。

 そして、一休みして、さぁ説明を下さいと待ち構えている三人に、説明をする。


「まず、ダーズさん。彼はコンサート会場を買い取った。これは、隠れ蓑にするためだ」


「でも、人が多く出入りするところを、どうやって隠れ蓑にしたの?」


「そのために必要だったのが、一斉解雇だよ。ダーズさんは時間帯によって変装を変えて、チケットを拝見する従業員になったり、警備員になったりすることで、会場に住みつつ身を隠すことにしたんだ。だから、他の従業員にいられては困ったことになる」


「そっか。いつの間にか、働き手が1人増えていることになるものね」


 アネットは納得してくれた。


「本当に、思いきったことをする人だったよ。俺がコンサート会場に最後まで残ろうって言ったのは、従業員に扮していたであろうダーズさんに、来てもらうためだったんだ。俺は同じ立場でもやりたくないなぁ」


「しかし、ダーズ殿は……」


「うん。本当に惜しかった。多分、電撃男の方に後を付けられていたんだろうね。だから、あんなに早くジガレイも来られたんだ」


 それが、相手が2人でいた理由だろう。ジガレイが依頼をして、もう一方が尾行する。そうして、ダーズさんの居所を探る魂胆だったんだ。


「最後にお兄がやったことは、何だったの?」


「闇の能力って、相手の体力や能力を削ることができるって聞いているんだけど。もしかしたら、他のものも削れるんじゃないかって思っていたんだよね。だから、今回はそれを試したんだ」


「と言うと?」


「あの2人の、記憶を削ったんだよ。1時間もかかったけど、なんとか成功した。あの2人が警察にいっても、俺たちが吸血鬼だということは、覚えていないよ」


「そうなんだ」


 説明を聞いて、リリィが自分の手を見た。自分にも、色々できるのかなと思っているのだろうか。


「それより、もうこうなったら浮島Bに行こうと思うんだ」


「実験を調査するために?」

 

「ああ。天上人の企みを調査したい。人間のため、吸血鬼の今後のためというのもある。けど、今まで色んな奴らと対決してみて分かった。俺はああいう傲慢な奴らが嫌いだ。自分たちのためだけに、人間も吸血鬼もいくら踏み潰しても構わないと思っている奴らが嫌いだ。だから、そんな奴らが考える人間を使った計画がどんなものなのか、さっさと調べてしまいたい。それがよくないものだと確信できたら、さっさと潰したい」


「ベル様」


 アネットは、嬉しそうに言った。加えて、リリィとツァーネルも笑顔になる。


「当然、私も行くから。私だって気にくわないもの。置いていかないでよね、お兄」


「私も、微力ながらお力添えさせて頂きます」


「わ、私も--」


「話は聞かせてもらった!」


 アネットに割って入る形で、扉が開いた。そこに姉さんがいて、思わず瞬きする。


「え、姉さん!?」


「エニア様!?」


「久しぶりだな、ベル、アネット。それより、浮島Bなら、私も行くぞ」


「お、お姉様! もしかして--」


 リリィの反応に、落ち着いて答える。


「そうだ、リリィ。仕事で浮島Bへ行くことになってな。その道中でここに顔を出す、それだけのつもりだったのだが、ちょうど話が聞こえてしまったよ」


「姉さんが一緒なら、心強いよ」


「何を言う。あれからずいぶん時間が経った。それでもお前は生きている。世話が必要なほど弱くはあるまい?」


「うん。お兄は凄い。強い」


 呼び方に驚いたのか、姉さんはリリィを見て瞬きをした。

 

「お兄? これはまた、かなり懐かれたな」


「呼び方の理由は、違う気がするけど」


 そう言うと、リリィがジッとこちらを見てきた。何かを聞きたそうだ。


「お兄じゃだめ?」


 そのことか。今更だし、問題はなかった。


「いや、いいよ」


「よっし」


 何か喜んでいる様子だった。それはさておいて、姉さんに聞きたいことができた。


「姉さんは普段どうやって浮島に行っているの?」


「私は飛べるからそれで行っている。というか、天上人以外は飛行手段がないと無理だ」


 飛べる、と聞いて更に聞きたいことができた。


「……そういえば、姉さんの能力って何?」


「自分の体を思い通りに操る能力だ。故に、細胞レベルで本気で殴ることもできるし、飛ぶこともできる」


「飛べるのは、なんか別次元な気がするけど。まあいいか。じゃあ、天上人はどうやって移動してるの?」


「浮島の周囲に行けば、天上人同士で通信ができるように、光の力が働いている。移動するときは、浮島の下部が開いて、地上から浮島まで浮かび上がらせてくれるそうだ。飛べる奴はそのまま飛ぶみたいだが」


「UFOじゃん」


 頭の中で、UFOと浮島を比較する。やっぱり、似てる。

 それより、飛ぶとなれば、方法がないことはない。


「リリィ、闇烏って大きくできる?」


「できるよ。皆乗せていったらいい?」


「お願いします」


「分かった」


 リリィに了承をとって、さっき何か言い損ねたアネットの方を見やる。


「よし、それじゃあ行こうか。アネットも来る?」


「行きます! もちろん!」

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