第22話 コンサート会場にて
◆
ベルナディール様は、本当に凄いお方です。
私立探偵として申し分ないだけでなく、天上人に負けることなく戦う勇敢さも持ち合わせておられる。
このような方と知り合いになることができて、私は幸運だ。
リリィお嬢様も、心なしか生き生きとしておられる。今まで、対等な立ち位置で交流できる吸血鬼がいなかったからだろう。
コンサートは事前に入場して、一時音楽を楽しんだ。最近は、自分のためにお金を使うことがなかったから、これはこれで新鮮だ。
しかし、この後のことを忘れてはならない。
コンサートが終わり、会場が拍手で包まれた。観客がどんどん帰っていく。それでも、ベル様の言いつけ通り、帰らずに席に座り続けた。端から見れば、おかしな客に見えたことでしょう。
しかし、それが狙いだそうです。全ての客がいなくなってから、1人の男が我々のところに来ました。
「あの、もう今日の公演は終わりましたので、お帰り願います」
「初めまして、ジセル・ダーズさん」
いきなり! 切り出し方が唐突だったせいか、ダーズと呼ばれた方はビクッと体を震わせた。
「はは、何を言っているんですか。私の名前は--」
「偽名は結構です。なんなら、今から依頼人の天上人の方に来て頂きましょうか。会えば流石に、人違いか分かることでしょう」
ベル様の言葉に対して、何の反論もないどころか、恨めしげな視線に変わった。これはまさか、本当にダーズ氏だということでしょうか。
「……何の用だ。天上人のところへ突き出す気か」
なんと、大当たり。やはり、ベル様は素晴らしいお方だ。
「勘違いしないで頂きたい。天上人の実験について、あなたが何か知っていないか、伺いたいだけです」
ベル様は至って平静なまま話を進めておられる。
「どうして、実験のことを」
「探偵として仕事しているうちに、そのことについて知りました。一体、天上人は何を企んでいるんですか?」
じっと、ダーズ氏は我々を伺うような視線を向けた。口をゆっくりと開ける。
「……知らない方がいい。ただの人間がどうにかできることじゃない」
「オラムさんからも、情報が取れてない。あなたしかいないんだ」
「オラム? まさか、あいつを倒したのか? てっきり、マティに強引な手段に出て返り討ちにされたと思っていたが……」
ベル様が前のめりになっておられる。それほど、天上人の企みを知り、それが最悪なものであれば、阻止したいと考えておられるのだろう。今のお言葉で、ダーズ氏の考えに変化があればよいのですが。
「実は、浮島Bで--」
話が聞けそうだ。そう思ったとき、破裂音が聞こえた。ダーズ氏の頭には穴が開いており、何が起こったのかは一目瞭然だった。ホールの入り口の方を見ると、ジガレイが銃を構えたまま立っている。
「困るね。仕事しすぎだ」
すぐに、ベル様とリリィお嬢様が前に出て下さった。私は、アネット様と共に下がり、長椅子の傍に伏せる。拳銃が相手では分が悪い。しかも、ジガレイの隣にもう1人の人物がいる。おそらく、天上人だろう。
「わざわざ実験のことを知りたがるなんて、お前たち、吸血鬼だろう? 実験を阻止する気か?」
「まさか、ただの人間だよ」
「隠さなくても良い。いや、吸血鬼であってくれよ。お前たちを倒せば、俺たちの立場は上がるんだから」
なんと、完全に私利私欲のために、ベル様を吸血鬼だと断定しようとしている! ブングラト氏以外に、まともな感性を持ち合わせた天上人とまるで縁がありませんな。
「お兄、どうする?」
「……ここで負けたら、元も子もない。吸血鬼だと疑われた時点で、警察に行かれたら終わりだ。イチかバチかの考えしかないが、やるしかない」
「分かった、考えがあるんだね」
どうやら、吸血鬼としての力も使って戦うご様子。ベル様がこちらをちょっとだけ見る。
「ツァーネルさん、アネット。今回は下がっていて欲しい。前は相手が1人だったけど、2人相手に守りきるのは厳しい」
「分かりました」
「……はい。お気を付けて、ベル様」
ここは、お二人に任せる他ないでしょう。しかし、いざというときは能力を使ってお助けをするつもりで、目は離さないでおきましょう。
早速、ジガレイが連れてきたもう1人の男が、自らの体に電気を纏わせて放ってくる。
「
ベル様は闇でマントを作り、電撃を防ごうとなされた。しかし、ある程度の電撃は貫通してきた。ダメージを受けたのか、歯を食いしばっておられる。
「
今度は、リリィお嬢様が仕掛けられた。闇で鬼を作り、ジガレイの方を叩きに行く。
すると、ジガレイは光の触手を無数に伸ばし、暗鬼を捉えてきた。
「
すぐさま暗鬼の形を虎へと変え、鬼を縛っていた触手をすり抜け、触手の上を走りジガレイを切り裂いた!
だが、ジガレイは直前で光を纏った。ダメージを減らされたと見て間違いない。
ジガレイの注意が暗虎に向いているうちに、リリィお嬢様は床に手をつき、床をぐにゃりと操ってジガレイを捉えようとなされた。しかし、素早く長椅子から長椅子へと飛び渡り、お嬢様に接近してきた。
そこで、ベル様が闇で手袋を作り突っ込んでいく。ジガレイはそれに対しては光の触手を伸ばす。
「
対して、ベル様は闇の球体を放ち、爆発させ、触手を吹き飛ばした!
もう1人の男がそれを見て、電撃で援護に回る。
「
今度は暗幕で防がずに、濁雷でカウンターを狙われた。お互いに雷撃が当たる。
一方でリリィお嬢様は、狙いがベル様になった隙を突いて、再び暗虎をジガレイに向かわせた。
ジガレイはそれに気づき、今度こそと思っているのか、暗虎を触手で捉えようとする。
「
しかし、お嬢様は更に小さな烏へと変身させ、触手をすり抜ける。
「
かと思えば、ジガレイの頭上で鬼へと戻し、落下すると同時に金棒で殴りつけた!
「ぶ--!」
「リリィ、電撃男の方を頼む!」
「分かったわ!」
ここで、お互いに狙いを変える模様。お嬢様はそのまま、暗鬼を電撃男の方へと向かわせた。
電撃男は、電撃で応戦をしておりますが、暗鬼は本体ではない。消滅させられるほどの火力がなければ、優位に立てるでしょう。現に、電撃男は苦しそうに戦っている。
ベル様の方は、ジガレイに突っ込んでいった。ジガレイは触手を操りベル様に攻撃をするが、伸びてきた触手を片っ端から掴んで闇を流し相殺し消滅させたり、避けたりされている。更にベル様はブラックボックスから黒剣を取り出して切り裂いたり、触手に捕まってもそこから闇を流して相殺し消滅させたり、多彩な方法で優位に立っておられる。
そのまま、とうとう接近戦に持ち込み、闇を纏わせた拳で殴りかかった! ジガレイ本人は触手に頼った戦闘をしているせいか、接近戦は不得意なご様子。ジガレイも電気男も、両者ともに不利を強いられ、闇によって体力を削られている。
このままでは埒があかないと思ったのか、ジガレイは触手を纏めて巨大な拳を作り、光のオーラを立ち上らせた。見るからに、本気の一撃を食らわせようとしている!
電撃男の方も、今までとは比にならないほどの電撃を体に帯び始めました。とても、近付いて援護できそうにありません。
「ベル様」
心配そうな声を、アネット様が上げました。無理もありません。とにかく、いざというときには私にできることをするのみ。
そして、とうとう両者が巨大な一撃をベル様とお嬢様の暗鬼に当てようと放ちました。
そのときです。ベル様は影に潜り、お嬢様は暗鬼を解除したのです。相手を失ったジガレイと電撃男の技は、それぞれがお互いの元へと飛んでいく!
「な--!」
「しまっ--!」
何と言うことだ! それぞれが本気で放った攻撃同士で、同士討ちをしてしまった! 最後の最後で、ベル様とお嬢様はこれを狙ったのか。
当然と言うべきか、2人共に床に倒れていきました。しばらくは、立ち上がれそうには見えません。どうやら、私の心配は、いらぬ心配だったようだ。
「お兄、ん!」
「おう!」
なんと、ハイタッチを! お嬢様、本当によい仲間をお持ちになることができましたね。
「それで、どうするの?」
「2人の頭を掴みたいから、ちょっと電撃男を持ってきてくれるか?」
「分かった」
ベル様の元に、2人の体が横たわっている。ベル様は、2人の頭を掴んで、呟いた。
「
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